「ゆるして…見逃してくれよぉっ!」
情けなく眉を下げながら全力疾走する栗色の髪の男は、追い掛けて来る相手を都度狼狽した目で認めながら喚く
「お金ないんだよぉっ…どんぶり(特盛り)一杯だけじゃないかぁっ!!」

「ゆ、る、さぁあああああああああ!!!!!!!!」
大声を上げ走ってくるのは、巷でうるさいと評判の組織正のメンバー、蛍火ほたるである
「食い逃げしたら捕まえる!!!!!これはルールだからなっ!!!!!だからおとなしく捕まれぇえええ!!!!!」
「ボクは捕まるわけにはいかないんだよぉっ!!」
ひい、ひいと息を荒げながら涙目で走る、息が上がって来た逃走者は振り絞るように最後に大声で叫ぶ
「どうしても見逃してはくれないのかいぃっ?!」

「当たり前だぁあ!!!!!いかに軽い犯罪であっても、反省させるために捕まえるんだ!!!!!待て犯罪者ぁぁあああ!!!!!」
「あぁあ~っ!!犯罪者呼ばわりはひどい!!ボクはひもじかったからごめんなさいの気持ちを忘れずに美味しいご飯を頂いただけなのに!!!」

身柄を拘束する意思が衰えない事を確認すると、は、と息を吐いて唾を飲み込む

「……、仕方ない………あんまりこういう時に使うもんじゃないけども……」


だだだだと追い掛け続けていた蛍火は、男が路地裏に駆け込んだ事を視認する

「例えごめんなさいと思いながら食べても犯罪は犯罪だ!!!!!だから大人しくお縄につくんだ!!!!!」


ザ、と続けて駆け込むと、そこに――いつ着替えたのか侍の姿になり、腰に刀を差して居る男の姿があった
緊迫した表情で正である彼を見据えている

「ちくわ丸」――……被っている笠に、緊張感なく大きく赤い墨で書かれてある

その手は刀の柄に手を掛け、臨戦体勢

それを視認するとむ、と彼も思考するように立ち止ま
「………君がその気なら、ボクもそれなりに抵抗す……」

「何をする気だ!!!!!」
るかと思いきや、そのまま自分目掛けて突っ込んで来る蛍火に侍男は大きくビクついた
「きっ、斬るぞっ?!」
慌てて抜刀して後退りながら頼りなさげに刀を構えるも、蛍火は走る事を止めずに来る


「お前アザナか!!どうせアザナなんだろう!!!!!」
「こんな格好してる日本人がいる訳ないだろう?!!アザナだよッ!!『侍』のねっ?!」

突っ込むように訴える彼をよそに、ぽう、と蛍火の手元には五つの蛍光のような光が現れる

(――光の玉?!)
迫る彼の能力であろうそれは、すい、と自分の目の前まで飛んで来る
攻撃の一種と判断し身体に触れる前に、扱いに慣れた様子で刀を振り下ろし——それを斬り付ける

「――ッ!?」

――が、目が眩む閃光が放たれる。しまった、と光を遮るように片腕で視野を狭める


「ははっ!!!!!」
ば、と目の前に手を翳すと更に二つ目の光が彼へと向かい、それを防ごうとした侍男の手の甲がじゅうっと焼ける
「あづッ!!」

「俺の能力は、『蛍』だ!!」

熱と光を操る、ということだろうか
笑いながら彼へと手を伸ばす蛍火

焼け焦げた痛みから物理的な涙を浮かべていた侍男は——、僅かに回復した視界を頼り、
「――、」
目を見据えると思い切り踏み込み峰打ちを喰らわせた


「ぬっ!!」
痛みを堪えるように声をあげ、ぐらっとよろけた隙を見て侍男は急いで踵を返す
三撃目を放とうとしていた蛍火の閃光を直視する前に、背を向け走って逃げ出した

蛍火はそれを見て追いかけようとするも、峰打ちの痛みでよろめきその場に座り込んでしまった
「……畜生!!」
「何が畜生だ馬鹿者」

叫んだら、迎えに来たロリに思い切り背中を蹴られた



ひいっ、ふうと走って逃げ、街中に出る頃には元の冴えないただの人間の姿に戻っていた
「はぁ~~もぉ~~……なーにあの子~~……もう会いたくな~~い………」
路地裏の方を見やりながら困り眉で、また腹を空かせながら歩き出す

(……にしてもボク、"正"の蛍火って人と接触しちゃったのか~…あれ幹部だったよな~…参ったなあ~……)
途方に暮れたように後ろ髪を掻きながら、彼は"アジト"に向かってゆく

食い逃げをしてしまったことと、殺人犯罪者組織の"幹部"である自分が正の組織と接触したこと――どちらを先に話すべきか考えながら。





蛍火ほたる by kimi.
ちくわ丸 by jin.

01. 蛍火ほたるvsちくわ丸 了(20150814)