「………」

真夜中の路地裏。血まみれで倒れてる男の前に立っている、金髪の女性
やってきた人の気配に気付けば、"返り血のかかった顔"を振り向かせた

――西洋人。整った顔立ちで、何も無かったように口を開く

「……ダレ?」


「……成る程な」
かつ、と現れたのは、緑髪にプリーツスカートの緑の軍服を着た少女だった
「殺人罪か、犯罪者には仕置きが必要だな」
「Oh no!!!! ワタシ殺してませんヨ?武器トカ持ってないでショ??」
腕を大げさに広げ、長いコート袖から両手の平を見せる
最中——、しゃら、と分銅の付いた細い鎖が少女の周囲に浮いて現れる
金髪の女性はそれを見て、この場にそぐわぬ明るさで表情を喜ばせた

「wow!! アナタアザナですネ?!それ何て言うんデスカー?!」


純粋に目をキラキラさせて歩み寄る彼女に——冷たく、上から目線の少女

「――近付くな」

盾にするように、数周の鎖が少女の前に。ぴた、と女は足を止める

「……まあ情状酌量の余地くらいは与えてやろう。だが、まずは身柄を拘束してからだ」

「hmm……乱暴にされるのはキライデス」
素直に悲しそうな顔を見せる
「それよりもこのヒトデース。助けてあげられまセンか??」
少し横に避けて死体を示す。至極心配そうな顔でそちらを見やる

男の胸には風穴、両腕は獣に噛み付かれたようにボロボロ。そこらから大量に血が流れ、とても生きているとは思えない


「……」
目の前の死体を心配しているのだろうか、と思考する
「……私にはそいつは死んでいるとしか思えないな。お前には生きているように見えるか、その致命傷で」
相変わらず嫌味を言うような物言いで
「そもそも、その返り血は何なんだ?お前が殺ったんじゃあないのか。どうなのだ」

——これを仮に死体と認知出来ないのだとしたら、この女の判断力が酷く鈍いという事になる
であるならば、やはり疑いは晴れないが——

「生きてるとは思ってまセン。but、生き返らせるコトもできるんじゃないデスカ?"アザナ"なら」

——この女の主張は、これだった


その言葉に少女は、自分の過去をフラッシュバックしたかのように、当たるような怒りを見せた
「……そうだろうが、」

「生に干渉するのは道理としてタブーだ。何よりも、そんなことをしてはいけないだろう」

「そうなんデスカ?」
酷く、軽視するようなきょとんとした顔で返事をする。どうにも、この女は——

女は思い出したようにごしごし顔の返り血をこすり、今度は真面目な表情を見せ、「…ワタシは殺してまセン」と伝えた


「……お前はどうしてここにいたんだ」

彼女の一貫した否定の態度に少女はいよいよ気が緩む
女は嘆くように眉を下げ、死体を見やった


「…ワタシはこのヒトの叫び声が聞こえたカラここに来ました。ワタシが来た時にはもう死んでマシタ」

「……、」


——少女は、疑念を確立させる

——"このヒトの叫び声"


「……成る程、この男の叫び声だと気付いた訳だな、離れていたのに」

鎖が、しゃらしゃらと動き出す
鎖の先の分銅が、ひゅひゅと回り始めた

「?! ストップ!!暴力反対ネ!!オンビンに話し合いまショー?!」
わー、と慌てながら両手を向けて制止の意思を見せるが——



ひゅん、と回しながら
「……穏便に話せるか」
「!!」

そのままざり、と後退して、空中に固定した鎖を踏んで跳躍する

そのまま彼女に向け、かなりの高さから落下しながら踏みつけようと飛び込む
女はとっさにバックステップで大きく距離を開け、避ける
その背には路地裏の壁際。逃げる意思があろうとなかろうと、既に行動は制限されている

「……、…分かりマシタ。捕まりますカラ、イタいのはやめてクダサイ……お願いシマス」

諦めた弱々しい表情で軽く両手を上げる



「……尋問してやる」
「オーケー……」

女の降参の合図を確認すると、鎖をそのまま彼女の手元に巻き付けようと歩み寄る

hmm…と目を伏せた悲しそうな顔で、女はそれを受け入れ


――無かった。

軽くあげた腕の袖の中から彼女の顔めがけて長く太い巨大な何かが飛び出して来る


『龍』。




「な、」
不意を突かれた彼女は、襲って来る龍にとっさに鎖を前方に構えて防いだが――龍の勢いを殺し切れず、押し負け、壁に背を思い切りぶつける。――そのまま力なく項垂れる

「お、まえ、そういう能力か!!」

腕を交差させ、『鎖』の能力の彼女は、鎖で彼女の竜を絡ませようと


「―――」

叫ばれて、彼女は何を思ったのか

龍が絡められた瞬間もう片方の腕からもう一体の龍が出現する
それは明らかにアザナの中でも群を抜いて酷く強大で——恐ろしい能力で有る事は、誰から見ても一目瞭然だった

――そのまま龍は、少女の頭を喰らおうと、大きく口を開ける



「――!!」

今度こそだめだ、と少女の怯えた表情を浮かべた瞬間——

閃光が走った

「ワッツ!!?」
龍は怯み女は目を背ける


「平原!!!!!」


そこに駆け付けたのは、焦った表情の蛍火だった
そのまま彼女を姫抱きで連れ去ろうとする
「……!は、離せ!!蛍火!!」
「うるせぇ!!!!!殺されるとこだったろ!!!!!」
それ聞くと、ぶわ、と訳のわからない涙浮かべて、彼に抱き締められて逃亡するだろう


追撃する余裕を持ち直せないまま逃がし、無言で龍は袖の中に消えていった

「………、…"クサリ"のアザナ……きっと、正の」

真面目な表情で

「…一応、…に教えトコ。…殺さなかったコト、怒られるカナ?」

少し笑いながら、彼女は死体を放置して
——自分が殺めた人間を一度見つめてから——その場を、捨てて行った







かつり、と、ベッドに横たわる星螺を見る男がいた

「……」

泣きながら眠っている少女を労るように撫でると、彼はすぐに近衛の第二部隊を呼びつける

「平原、蛍火部隊は待機……交代だ。論佐、眠」





平原星螺 by kimi.
02. 平原星螺vsテレサ・ハーパー 了(20150815)
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