溢れかえるほどの花束を持ち、五人はある場所へ歩んで行く。
彼等が作った、贖罪の石碑。森の中に佇む、二メートル程の岩。そこに、それぞれが抱えていた花束を添え、目を伏せて黙祷する。何度も通っているのか、迷いのない行動だった。

「―――…留哉」
沈黙暫く、その中の一人、小童子が声を出す。目を開いて自分より身長の高い彼を見上げる表情は、どこか不可解そうな。
「本当に、良いの。"それ"で」

"それ"、は――彼が、彼女達に告げた提案。今後の彼等の行動。
この場所に来る前に既に、"それ"をどうするか結論は決しているが――内容が内容だけに、未だ、迷う所は無いとは言い切れなかった。そしてそれを、留哉も分かっている。

「…我侭に付き合わせちまってる事は痛いくらい自覚してるよ。嫌なら辞めても、良いんだぜ」

彼は、仲間の前では砕けた口調で話す。少し眉を下げながら笑う留哉に、一同は。

「そんなコト言っても、ストップしないんでショ?」
「留哉先輩のためなら火の中水の中嵐の中ッス!!!!!!!!!」
「…ボクらは君の力になりたいからここに居るんだよ。それは、変わらないよ」

留哉も、幹部勢も、これから成そうとしている事に対して不安が無い訳では無い。しかし、屈託無く、笑って応える。
彼が決めた事なのだから、自分達は従いたい、と。
小童子も――眉を下げて、ため息をついた。此処に来て吹っ切れた、らしい。

「――正直凄く不安だけど、…信じてる。留哉が、これが信念だと思うなら。あたしは、あたし達は着いてくから。何があってもね」

一同の言葉を聞いて、留哉は目を細めながら彼女の頭に手を乗せる。髪を解いている彼女を優しく撫でてやれば、小童子はむずがゆそうにその手を振り解いた。その様子を見て、彼はまた笑った。

「あんがとな、皆。……また、ここで、な」

見納めのように、暫く彼等は石碑を見上げていた。








―――突如、テレビ放送に彼等の姿が映し出される。
騒ぎ立てる声をよそに、その男とその連れは、テレビ局にずけずけと足を踏み入れる。

「オラオラァ!!!俺達は巷で有名なアザナグループだぜェ!!!!!!!!殺されたくなかったらそこどけやァあー!!!!!!!」
小熊花男が指を立て威嚇しながら人を退けさせる。「不用意に殺すとか言うな」と思い切りその頭を叩く野心小童子。ハァーイ、とカメラに向かって手を振り楽しそうに笑っているテレサ・ハーパー。落ち着かない様子でキョロ充してるちくわ丸。
それを、継舟留哉が、少し頭を掻きながら眉を下げて、どこか愛おしげに見ていた。

「、……あー、」
小熊の、正体を明かすような発言を聞きつけた報道陣は彼等をレンズに映す。ざわつく現場の中、仲間を後ろに従えながら、ややこそばゆそうな表情をしながらも、留哉はカメラの方を向いて口を開いた。

「…俺は留哉。正の人達がよく犯罪者組織って言ってるグループの、まぁ、リーダーだ」

留哉は、此処で初めて自分が其の組織のリーダーである事を自分の口から告げる。

「突然だが、聞いてくれ」

真摯に、真剣な面持ちで、片目が前を見据えた。

「俺の恋人は、優しすぎる人だった。だがそれ故に、心無い他人達から蔑まれ、貶められ続け――、それに耐えられず、自殺した」

しん、と空気が張りつめる。

「俺はどれだけ慰めても、共に傷を分かち合っても、彼女を救えなかった。俺は彼女を゛殺した゛奴らを許せなかった。

―――なぁ、」

「字面だけ聞けばよくある話だと思うだろう。だが、」

「俺の声を聞いている誰かも、――同じように、苦しんでないか?」

「死にたいと――そう、思ってないか?」

「もし、そう考える人が居たら、俺は言いたいんだ。心無い他人によって、あんたの心を殺される事は、絶対におかしいって」

「俺は、俺達は、そういう人を救いたいから、居るんだ」

「俺は、本当にあんたの進みたい道を進ませたい。――もし障害に、殺したいほど憎い人間がいるのなら――俺が、俺達が、社会から、゛正義゛と呼ばれるお綺麗なおふざけから、あんたを守る」


「――゛道(ドウ)゛。
望む道を歩んでいけるように、力になる――そんな組織の名前だ。安直だが、分かりやすい。よな?」

「我慢しなくていい。あんたを助けようとしている人間は、ここにいる」



カメラが壊された。やってきた警察達によって。
少し緊張していたのか、留哉はそれを見て少し笑いながら息を吐いた。

「犯罪者組織の首謀者、並びに組織員をこの場で逮捕する!!!!」
銃を向け威嚇しながら筆頭に言う女警察。つり目のそれに、ふ、と彼は表情を緩める
「捕まる訳にはいかないんだ。俺達が救える人達を、放っておけないからな」
人当たりの良い笑みで。まるで、"あんたも辛かったら助けてやる"と言いたげに、優しげに
それを向けられ、警察の彼女は畏怖のような気持ち悪さを胸に覚え、一瞬震えていた

「……ちくわ丸、テレサ、花男、小童子」
改めて、幹部としてそばに居てくれた4人を見る
やって来た警察に周りを囲まれれば、少し目を伏せて笑んだ
「さぁ、久々に大暴れだな。出来るだけ殺すなよ」
ぽん、と彼は最後に、今朝のように小童子の頭に手を乗せた。
"下克上"と書かれたハチマキをして髪を頭頂部に一つ、後ろに二つ結んでいる彼女は今度はそれを拒否しなかった。少し表情が緩んだ彼女を認めれば、留哉は少し笑って手を離し、"仲間"に告げた。

「じゃあ、またな」



――――。

「――敵の所在地は割れていた、が、先に行った警察は全員蹴散らされたらしい」
暗い会議室の中で、こつ、こつ、とホワイトボードに張り付けた犯人達の写真
祷忠且は、"正"組織の幹部四人を集結させていた
「――いいか、皆。こいつらがジャックして主張したことは、道徳として、道理として許されないことだ
分かるだろう?如何なる理由があったとしても、

――"人殺しは、許される正義じゃない"」

ばん、と
ホワイトボードを叩く彼の顔は、忌々しさを孕んでいた

「蛍火ほたる」
赤いメッシュを髪にいれた、活気ある青年

「平原星螺」
軍服を着た、左腕が義手の少女

「論佐理人」
分厚い眼鏡をかけた、独特な雰囲気の青年

「眠吹子」
穏やかな雰囲気の、内実激しい熱意のある女性

「行こう、君達が正しに行くんだ」

そうして、"組織"の長、祷忠且は柔らかく微笑んだ




継舟留哉、ちくわ丸、テレサ・ハーパー 、野心小童子、小熊花男 by jin.

祷 忠且、蛍火ほたる、平原星螺、論佐理人、眠吹子 by kimi.

15. 道 了(20150928)


第一部 終幕
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