簡易の独房の中で、空を見上げていた。
事件後、裁判で『数年少年院に入所』という判決が下った

「……」

アザナの未成年犯罪者が溢れかえるその場所は、絵に描いたような無法地帯だと聞く
自分にはふさわしい結末だと、判決を聞いて思わず笑いそうになった

他のメンバーは名前に出さなかった
罪を被るのは自分だけでいい。始まりは全て自分からだったのだから

あの時、彼女に殴られた際に投げ掛けられた言葉
自分は――髪の色を汚さなくてもいい、と

「……僕は……」

約束は護らなければならない。全人類を殺すまで、自分は止められない
だが、もう殺さなくてもいいのだろうか
何も苦しみを背負わなくても、ずっと、友人の重りを背負わずとも――

「縫手少年、聞きなさい」

声が聞こえ、そちらを向くと、警官が立っていた

「貴方に出所許可が降りました。保釈金が出ましたので――」

耳を疑った
莫大な金額だった故、両親ではないはずだと、彼は急いで聞き返す

「誰からのお金ですか?」

「貴方の学校の……」





「いやーはっはっは!今回は刺されたりして大変だったけど
美少女二人をはべらせられただけで、役得役得って感じだねぇ!」

病院のベットで、寝転びながら笑う生徒会長

「キミドリさん。帰りますか」
「帰るわ」

読んでいた本を閉じ立ち上がる無芸梨理恵と、眉間の皺を寄せながらぶっきらぼうに告げる赤紫キミドリ

江苗を心配して泣き乱していたのが嘘のように、いつもの彼女


「だめーっ!!!!!」

わびゃあわびゃあと泣き出す

「二人とも私が寂しくて死んじゃってもいいの!?
私はかよわいうさぎちゃんなんだよ!」

「うさぎはそんなに泣き叫びませんよ」
「うるっさい」

うるさい生徒会長に、やれやれと仕方なさそうに座る無芸

「あっ、じゃあ梨理恵ちゃん、キミドリちゃん、コーヒーかってきてーっ」

けろっと態度を直すと、にへにへとお願いをした
無芸は無言で本をベットに叩きつけると、江苗に対して顰めっ面でいたキミドリを引っ張って行った


「貴方はこれからどうするんですか?」

自販機の前にて、無芸が問いかける
突拍子もない――意味もないような

「今回の件で、転校する生徒は多いようです
――もっと警備の整った学校へ行かせたいという、保護者の意見が多かったみたいですね
縫手御傷は逮捕されましたが……今後も果たしてこのような事件に対処出来るのか、と」

彼女は――ちらり、と見上げた
事実、教師陣はあまり機能していなかった

「貴方はどうするんですか?――貴方は、アザナであることを隠していました
新しい学校に行って、改めて人生を送る事も出来るんですよ?」

自分も何か飲みたかったからと断る事無く彼女に着いて来ていた彼女は、一度そちらを見てから自販機に視線を移す

「あぁ…まぁ、そうなるよね」
こちらも普段の他愛無い会話のように聞きながら、三白眼を移ろわせお茶に目を留め、人差し指で購入を選択する
「や、…まぁ、もう遅いでしょ。一度アザナってバレちゃったら転校したくらいじゃ隠し直せるような世の中じゃないだろうし。別に未だ全員に知られてる訳でもないし、そんな気にしてないかな……手続きも面倒臭いしね……それに」
ガコン、と落ちて来たお茶をぼんやり見下ろしながら

「……」

続きを口にはしなかった。いつもの無表情に加え口元が隠れているため余計感情が読めない


「――……」

彼女が続けようとしたなにかについては、無芸は言及しなかった
そうして、彼女の選んだ『残る』という選択肢に、すこしだけ――ほんのすこしだけ、優しく笑った気がした

屈んでお茶を拾っては、キミドリは何事もなかったかのように無芸の方を向いて此方もと問い掛ける

「梨里恵は」

「……私は残ります。あれを生徒会長にしたまま去る訳には行かないでしょう」

「ふ。アンタもなんだかんだで江苗のこと好きよね」
面倒くさそうに呟く彼女に、目を伏せながら、口元は隠れているが、確実に笑っていた。相手を、"自分"を――嘲るような、からかうような色で


「――しかも、生徒会のメンバーが、生徒会長と私以外転校してしまいまして
圧倒的人手不足でしてね。困っているんですよ」

「へえ、大変そうね。まぁガンバ」
ちらりとこちらをさりげなく見ながら伝えて来る彼女の苦労談に関しては、視線を其方に向けるだけで無愛想に応えていた
生徒会…面倒は御免だと、心中でいつも通り追記しながら、



「や、ありんこちゃん」


やって来た周布恋屋を見た

「ああ、アンタ」
眉間の皺がいつもより不機嫌そうに深まる


無芸は心底嫌そうな顔をすると、さっさと行ってしまう
相変わらず連れないなぁ、面白いけど、と彼女をからかってから
「元気だった?あのあと倒れたって聞いたけど」
――助けたのは自分だとは伝えてない
彼は、ひどくおかしそうに問いかける

「……大事無いわよ。良かったわね、アタシのこと殺したかったんでしょう」
鼻で静かに笑ったあと、脱力気味にズボンのポケットに片手を入れながら相手を見やる
「でも次そういう言動したら直ぐ警察呼ぶからね。冗談だろうが何だろうが」
むす、むす


「大丈夫、君は殺すよりもいじくり倒したほうが良いからね」
にへにへと微笑むと、彼女を上から覗き込もうとする
「…結局アレが冗談だったのか本気だったのか、今は分からないわ」
相手の微笑みに怪訝そうに更に顔を歪ませながらも、見上げては


「そうそう、開いてる日ってある?
僕、君とデートすることにしたから」



「は?」




そう、言った
唐突に



「は???」




服の下でぽっかり口を開けて、意味不明だと主張している彼女の表情が彼には見えている



え?とこちらも笑顔で問いかける
というか大体察したようで

「僕、コオロギ……えーと、あの褐色肌の垂れ目君と約束してもらったんだよ
僕が君を好きにしていいって話」

にこにこしてる

「だから、君とデートすることにした
拒否権とか無いんだけど?」

「は?????」

怒りを通り越して真顔である

「…芝南?芝南なの??あいつ アイツ何言ってんの??」
溢れ出る殺意 何、好きにして良いって 何 とわなわな繰り返しながら

「イヤに決まってんでしょ、何、デートって それ受け入れる義務アタシには無いし 何なの」

口が早いのは動揺しているからか



ふーん、と唇を尖らせる

「いいのかな――貸しは早い内に返した方が良いんじゃないのかい?」

ねちねちねちねち


「君ってさ、命乞いした時に、『何でもするから』って言ってなかった?」


ぐさっ


「ま、君が行かない行かないって言っても家の前まで迎えに行ってあげよう
僕は言質を取ってるし、君の事情なんて知ったこっちゃないんだからね?」

彼女に向けて、軽くデコピンした
「―――」

ふすっと笑うと、そのまま去っていこうとした

愕然と口を開けて彼の背中を見送った彼女は、ぐぐ、と茶を握る手の力が強まった


「………。芝南 殴る」





「……悪寒した」

細長い中くらいの大きさの箱を四箱積み重ね、片腕に抱えながら屋上への階段を上がる芝南
探すのは得意だが隠れるのはそうでもねえからな、と某色の名前の彼女を思い出しながら、辿り着いた扉を開けた
「見っけ」

そこに居た探し者――水瓶乙女を視認すると、無表情のまま彼女に声をかける



穏やかな表情で佇んでいると、声をかけられた
聞いたことがある声に、向く前に記憶を掘り返した

「何だ、お前じゃあないか」

あの時よりは落ち着いた、だがそれほどテンションが低いという訳でもない様子

「どうした?また探し物か?」

「芝南だ」
つかつかとだるそうな歩調で歩み寄ると、持っていた箱を2箱持って彼女に差し出す
「探し物はお前。――大福100万円分。の内の半分だ。やる」
ぽん、と彼女に手渡そうと
「欲しがってただろ、お前」



「――


はぁ?」


きょとん

彼女にしては珍しく、間の抜けたほげ顔

「……」

あの時の言葉は、なんというか返答的な意味合いだった
よもや彼から本当に貰えるとは思ってなかった

じわり、と笑いが込み上げ

「は、ぷ、……ぷひっ、いひひひひひひゃひゃ!」

腹を抱えて笑いだした

「や、やめてくれ、腹が……あひゃははははは!!!ひきつる!!!
あひっ、ひぃ、お、お前は飽きない奴だな、あひゃっひゃはははは!!!」

屋上に、笑い声が暫く響く

「…………ふ、」

声を上げて笑う彼女を見て、彼もつられるように可笑しげに笑った
「貰い過ぎて困ってた時にお前を思い出したんだから仕方ないだろ。むしろ感謝しろ」
目の前で盛大に笑っている人が居るせいで、自分もく、く、と珍しく笑いをこみ上げさせていた
「――あくしろ」
早く受け取れ、と箱でぽんと相手の肩を叩く


「分かった分かった、そう急ぐな」

くくく、と笑いを押さえながら、箱を受けとる

「悪い気はしない。ありがたく受け取るぞ
丁度甘いものが食いたかった所だ」

くるくる、と箱を指で回す
中々に高そうな大福だな、と化粧箱を見ての感想を漏らした所で

「それじゃ、そうだな――お前に探し物でも頼むとするか


あたしは、飯は一人で食うのが好きな性分でな
しかし今は気分が良いから、誰かとこの大福を食ってもいいと思っている

あたしと大福を食ってくれる奴を、探してくれないか?」

「あぁ?」
間の抜けた声色で不思議そうに返す

「一緒に大福食う奴ね。別に構わねえけど、探せって言われても、俺はお前の友達が誰か知らねえし、そも――」

じ、と改めて彼女を見つめながら

「俺もお前の名前、知らねえんだが。先ずはそれからだろ」

お前と大福食う奴を探すにしても、



くくく、と笑う

「私は水瓶乙女だ。芝南」

——友人になるとしても。

そう告げると、唐突に箱の中の大福を一個取り出して口にくわえた彼女に、彼もまんざらでないように笑った





コーヒーを片手に廊下を歩いていると、彼に出会った
――無芸梨理恵は、頭に血さえ登らなければ、存外用心深い人間である

「……」

そのまま通り過ぎようかとも考えたが――

「思えば、貴方は不気味でした
――今回の一件、単純に暴動に便乗したい人員には、女生徒も居たようですが」

立ち止まり

「貴方は――どうも、胡散臭い
縫手一味に肩入れしている訳ではなく、かといって学内の生徒に恨みがある訳ではない

暴動目的こそあれ、同時に理性的な……何か目的がありそうな人間」

そう、彼女は

「貴方は、何を考えていたんですか?壱護ピエル君」


そこに居たのは、待ちわびていたかのように、屈託なく笑って、後ろに手を組みながら立っていた彼

「胡散臭い、かあ」
考え込むように復唱してから、しかし、直ぐに肩をすくめる
「何かを考えているとして、それをキミに教えると思う?――手品師は裏を見せないものだよ。…でも」
両腕を少し広げてみながら、ずいっと彼女に接近すると目の前に右手を差し出し、左手でポケットから出した赤いハンカチを乗せ
「ワン、トゥー、はい!!」
とハンカチを退けると、何も無かったはずのそこに一輪の花が握られていた

「散々な目に遭わせちゃってゴメンね。ボクに付き合ってくれたお礼と、お詫び……こんなんじゃ全然足りないと思うけど」

強引に彼女の手を握りその花を持たせようとする

「―――ボク、強かったよね?ね?」

歯を見せて笑って、イエスの返答を懇願しているような――何処か、異常な感情が垣間見えるような笑顔で、問い掛けた



「……、」

その手品に不意を突かれ、瞳を見開く
花を握られると、それに喜ぶ――という、余裕は勿論なく

ただ、己の強さに対して質問する彼に、只ならぬ『執念』すら感じた


「……貴方は、強かったです」

病院であるため、うかつに電気を発することは出来ない
ただ、彼に対して威嚇することだけは、忘れないようにと

「だからこそ今後、この学園で騒ぎは起こすのは止めてください
無いとは思いますが、もしまた何かしでかす気でしたら、私は貴方を――

――失礼します」

花だけむしり取るように受けとると、彼の横を通り過ぎようとする


「――うん、有難う」

満足げにそう答えてぱっと体を起こして離れる彼は、今見せていた"人気者の明るい壱護ピエル"ではなくて、彼女と戦っていた時の壱護ピエルに近かった
「安心して、学園でもうこんな事するつもりは無いよ」

受け取って貰えた事に"満足だ"という意思を伝えようと最後ににこりと可愛げのある笑みを浮かべながら、去って行く彼女を手を軽く振りながら見送った

「多分 ね」

ぽつりと





「御剣さん」

彼女の下にやって来たのは、花伝院さゆらだった
一度彼女の顔を確認すると、視線をテーブルに逸らし、綺麗な籠にいっぱい入っている良質そうな果物を其処に置きながら喋る
「あの、お見舞いと…さっき、赤紫さんとすれ違って、伝言が。『用が出来たからアタシは帰る、コーヒーは梨理恵から貰って』と……」


――伝えながら、事件当日の、赤紫キミドリとのやり取りを思い出す

爆弾を設置する計画と、生徒会長を殺す計画
其れに初めは賛同する形で居た自分が、生徒会長本人と戦闘を繰り広げたことで、気持ちが揺らぎ、そして
彼女を殺してはいけない、誰かに彼女を殺そうとしている御傷を止めて欲しいと
思考が其処ばかりぐるぐると巡り、衝動的に駆け出した時に出会った彼女に、自分自身が知る計画の全貌や彼の能力、全てを打ち明けた事を


そわそわと、落ち着かない様子で控えめに彼女を見る
殺すつもりで能力を彼女に向けた初対面時以来会っていないのだから、落ち着いて出会えるはずが無いのは当たり前だが



江苗は部屋に来た彼女に対して、すこし驚いた様子で見ていた
花伝院が話をしている間も――彼女はややうつむき、髪で顔が見えない状態で聞いていた
ずっと、黙りこくっていた
ずっと――

そして唐突にばっと笑った顔を上げ、花伝院がそれに驚くも気にせず


「花!伝!院!ちゅあああぁああぁあーんッ!!!!!!」


そのまま抱き着いた

「良かったぁ!!怪我無かったんだね!!キミドリちゃんとお話してたんだね!!キミドリちゃんいいこでしょ!!手とか痛めてない!?凍らせたりしてごめんね!!学校楽しい!?元気だった!?」

「みつ る」
目を丸くして、そして

「あ、あの、わたくし……わた」

――目の前、敵だったはずの自分を抱き締める彼女が、疑いたくなるくらいに優し過ぎる
うる、と涙を浮かべて、嗚咽が溢れそうになって、言葉がとっさに出て来ない


「……私、花伝院ちゃんが元気そうで、良かった」

抱き締めていて――顔が見えない
だが、彼女が涙を堪えているのはなんとなく伝わった

「でも、まだ――ほんとに元気になったんじゃないって、私思うの
あの時、教えてくれなかったでしょ。何があったか」

彼女がどうして、あの事件に荷担したのか
どうすれば、彼女は――心の底から、笑ってくれるのか

「私、花伝院ちゃんの友達だから、助けたいの」

少し離して、彼女と向き直った
寂しそうな、真剣な顔付き

「……ともだち………」
ふわ、と、また更に泣きそうになる
自分を「友達」だと断定してくれた目の前の彼女が本当に眩し過ぎて、どうすれば良いか分からない
だからこそ、その優しい彼女の気持ちに、早急に、真摯に答えたかった
「……そう、ですね。江苗さんはちゃんと、わたくしに時間を下さいましたものね」
ぐす、と少し赤くなった頬にある涙を指で拭いながら、彼女と見つめる



縫手さんがこの事件を起こそうとしたきっかけは、"日之影 遮光(ひのかげ しゃこう)"という男子生徒の存在です
学園の人達にいじめられていたわたくしや、縫手さんを助けてくれた、本当に優しい方でした
しかしその内に、日之影さんもいじめられるようになりました
責は自分にあるといつも平静を装って笑顔を見せてくれていましたが、心はボロボロだったんです…わたくし達は、気が付けなかった……
そして耐えられなくなった日之影さんはついに、縫手さん立ちの前で飛び降り自殺をして死んでしまったんです
…半年程前の事です
彼は死ぬ間際に言っていたそうです 『皆を殺して』と

そして、数日前テレビで映し出されていたアザナ組織 "道" の大衆演説が、縫手さんの心に抱えていた『約束』を果たす、後押しとなったようで、――――



「わたくしは、彼を"殺した"学園の人達が憎かった
だから、御傷さんの作戦に加担しました

でも……貴方と出会って、わたくしの抱えていた怖い自分も、消えて行っているような気がするから………」

恐る恐る華奢で白い手を伸ばすと、ぎゅ、と彼女の手を両手で包み込もうと
ふ、と、眉を下げ、消え入りそうだが澄み切った穏やかな笑みを浮かべながら

「……ありがとうございます、御剣さん。……貴方が居なかったら……わたくしも、御傷さんも、皆も……」

彼女の手に、自分の手を伸ばして


「――、」


「……そんな、」

江苗は――言葉が出なかった

去年。そうなれば、自分がまだ生徒会長では無かった頃の話だ
自殺した生徒が居たことは知っていた
だが、自分は『それ以上知ろうとしなかった』

確かに、日之影遮光の言葉も――縫手御傷の意思も、憎悪を募らせ過ぎたうえでのもの
江苗が責を全て負う必要は無いが――彼女が全くの無罪という訳ではない

「……、ごめんなさい。……私、……」

彼女は、謝罪した

「今更謝っても……遅いけれど……、
私……何も、知らなかった。……」

すべてに対して
花伝院さゆらや、縫手御傷がいじめられていたことにも
日之影遮光がいじめられていたことにも
自殺を止められなかった事にも
縫手御傷の意思にも

日之影遮光の、最期の言葉にも


「……私……最低、だ……!」


やがて、ぽろぽろと泣き出した
彼女に何度も謝りながら

「……御剣さん」
泣き出した彼女の手を、ぎゅ、と握りしめる

途端に、眩しくて強い女性だと思っていた彼女が、触れるだけで崩れてしまいそうな脆い砂の天使像のような印象に変わっていた

「………過ぎた事はもう仕方が無いです。でも、そうして、想ってくれる貴方は――きっと、これからも、いろんな人達を、助けてくれるのでしょうね…、……わたくし達が貴方に救われた、ように」

一人言のように、しかし相手に伝えるように呟く
背中をさすって、壊れ物を扱うようにふわりを抱き締めながら、彼女はまた、彼女の優しさに泣きそうになっていた


涙ばかりぼろぼろ流していたが、彼女の暖かな優しさに――ゆっくりと、自我を取り戻していく
恐らく、この場に花伝院が居なければ、御劔江苗は精神面が壊れていただろう
優しい匂いの花に埋もれ、やがて、ゆっくりと落ち着いていく

「……こんなこと、二度と起こさない」

花伝院さゆらのためにも
縫手御傷のためにも
日之影遮光のためにも

「私が、学園を変える
もう、こんな悲しいこと、絶対に――」

「……どうか、」
追い詰めないで
言葉にすれば余計、そんな気持ちを助長させてしまいそうだから、言わずに更に抱き締める


彼女もまた、花伝院を、離さないように抱き締める

彼女は、またすこしだけ、進んだようだった



相手の頭を柔く撫でながら、
救われた彼女は、彼女の力になろうと
「……ねえ、御剣さん。良かったらわたくしも、―――」




ジジ、ジジジ…

彼女達の耳に背景音として響いている、電子音混じりの病室のラジオの音声

"―――今回起こった学園爆破事件を始め、暴動騒動や殺人事件の多発、他――
今、この日本は確実に、急速に変わって来ています
沢山の人が死に、怯え、混乱し――燦々たる有様です
しかし――、これはあの組織「道」が言っていたように、私達誰かが、救われる道なのでしょうか―――" 

機械の向こうの発声者が最後にぽつりと呟いた言葉に、"そんな訳無いだろう!!"という怒号が奥から聴こえた後、ブツリと放送が途切れる音が鳴り響いた




――――この事件は、この国の道の変化の一部である



赤紫キミドリ、芝南稔、壱護ピエル、花伝院さゆら by jin.
縫手御傷、御劔江苗、無芸梨理恵、周布、恋屋、水瓶乙女 by kimi.

24. 変 了(20151228)
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