「ああ、」

「――何だ、君か」

持っていたナイフを落とすと、てらてらと血塗れた己の手を見せた

「報復はたった今終わったよ。協力ありがとう」

そう、告げる
生徒会長を殺した、と


「協、――力」

目を見開いて血濡れの彼女を見る
殺、した?間に合わ、なかった???

「……御………

……傷ゥウウウ!!!!!!」

ふらり、顔を上げれば、怒ったキミドリが迫真の怒号を発して、彼の胸倉を


掴みかかろうとした瞬間
ふ、と彼の気配が溶けるように消えるだろう

「――察するに、僕の能力を知らない訳じゃあないよね」

ふと、彼女の後方から聞こえるそれ
振り返ると、何も構えを取らない体勢で、彼女を数m先から見ていた

「僕には、誰も攻撃出来ない」

縫手御傷
彼の能力は――

「僕の能力の本質は、ここから『ずれた次元』にあるからだ」

『隠』れることである故に


「五月蝿い」
消えた彼に驚くこともなく、怒った表情を振り返させて三白眼で睨み付ける

「江苗にはね、血赤色は似合わないんだよ!!!!!!!!!!!!」

口を大きく開けて叫びながら、再び彼に向かい



「そうか、」

彼女が叫んだ言葉に、かつて自分も美しい色彩の髪だと褒められたことを思い出した

ただ、良心の呵責は無かった

「それはすまない事をした」

彼は、いつも通り攻撃することにした
ふ、と再び姿を風景に溶けさせると、彼女と至近距離になるほど接近し、腹部を蹴りあげるだろう

「ぐッ、は――」

怒りに我を忘れかけつつも――蹴られれば、彼の脚を両腕で抱えるように捕まる



「――、」

一瞬目を見開く
その腕を振り払おうとし――『何故か隠れようとしない』
恐らく、体を捕まれている間は隠れることは出来ないのか――

「――オラァ!!!」

そのまま、彼に頭突きを狙う


ごッ、と
鈍い音と共に、額の皮膚から血液が溢れる

「――ッ!!!!!」

酩酊したような視界の中で、咄嗟に彼女を、突き飛ばす
それから、再び『隠れた』のか姿を眩ます

「――今の君なら分かるだろう」

ぽつり、と彼の声だけ聞こえる

「君のその心の痛みは、かつて僕が味わったものだ」

彼女に、メッセージを残すように


「分かってくれ――僕は、世界のひとびとを全員、殺さなければならないんだ」


「……痛み?」
それでも彼女は、分かろうとしなかった
大切な友達を失って感じている感情の錯綜は真実だが、それを分かるとは言わなかった

ふ、と威嚇を続ける獣のような目で繰り返し
「――馬ッ鹿じゃないの!!!人が人を殺す理由なんて一っつも無いのよ!!!アンタが、アンタが――」


ふ、と背後から現れた彼から拳で殴られる

再び消えた彼を必死に探す。血が滲む口元を拭いながら、"見えない"彼を追う

「アンタの綺麗な沿白色――汚す必要は無いよッ!!!」






「あー、そうだ。コオロギくん」

場所と時は遡り、先程の体育館倉庫へ
向かおうとする芝南に対して、周布は笑いかけながら伝える

「御傷はね、決して悪い奴じゃあないんだよ
ただ、ここが暴走しちゃっててね」

とんとん、と頭を指差して

「あいつは、ただ、『代弁者』なんだ
死んじゃった友達が信じてた主張を、想いを、伝えたいだけなんだよ」

「………友達の主張?」
あらかた話を聞き、遅過ぎる援軍に向かおうとしていた芝南は、振り返り
「なんだよ、その主張って」


「そう。僕らにはね、友達が居たんだよ」

にこり、彼は女性的に微笑みながら

「そいつはね、僕らを助けてくれた恩人なのさ
いじめられてた僕らをね。いい奴だったよ。聖人みたいな奴だった」

彼等を何度も助け、やがて仲良くなった
世界を恨もうとしない人間だった
責任は全て自分にあると、己の心身をすり減らす人間だった

「――最期は自殺だったよ

そいつも標的にされてね。しかも、僕らよりも酷く悪質なものだった
何度も助けて、励ましたけど、そいつの中じゃ手遅れだったみたいだ

そいつは、御傷に対して、ひとつの『呪い』をかけたのさ」

何だと思う?と笑いかける




姿を隠したままに、御傷は語り出す

「――僕は、君に髪を褒められたとき、嬉しかったよ
あいつにまた会ったみたいで――僕は、嬉しかった」

ゆっくりと紡ぐ

「ただ、僕は手遅れなんだ
約束は護らなきゃいけないんだ

でないと、あいつに――」

彼女は、気付くだろうか
目の前に、不意に彼が、『息継ぎ』のように現れる刹那
彼の体が、『暗い闇』からゆるりと現れる事を

彼は、再び隠れる
暗い闇へ、――彼女は、気付くだろうか


「約束って何よ、」
彼が能力を使おうとした瞬間、目を凝らす

脳裏によぎる花伝院の言葉

激情に駆られながらも、彼女は
"暗い闇を"


手の平から溢れさせ、乱暴に地面に叩きつけると、大袈裟なくらいに広がった暗い闇の「色」に、そのまま落ちていった

「――人殺しの約束なら、アタシは――死んでも"止めて"やるよ」

怒号は変わらず、一貫して、



そうして、彼女は見つけるだろう
暗い闇にぽつりと浮かぶ、雪のような白髪が

「――どうして」

驚愕の表情で、彼は


"どうして、そこまで"


「――良かったよ、」

へ、と悪人のような笑みをこぼして拳を力強く握り
「アタシの能力が通用して、さあ!!!!」


うろたえる相手の胸倉を掴めば、思い切り、顔を殴り付けた


「――……がッ!!」

ふらり、体が傾いた。頬のぐらぐらとした痛みに耐えきれず、能力が解かれる
彼女ごと巻き込んで、元の世界の次元へ
闇が一気に晴れていく。そして

後には、床に倒れる犯人たる少年と
生徒会長である、少女

「―――………っ」
元の世界に戻る
敵意が静まったこの場で、人を思い切り殴ったのは初めてだ、と後から思いながら、ぼんやり伏している二人を見、

そして、

その時、血溜まりの中で呻く声が

「………江苗!!!」

目を見開いたキミドリは駆け寄り、膝をついて彼女を覗き込む



「……ご、ほ、」

血液を吐きながらも、顔だけなんとか起き上がり、苦笑したそれを見せた

「キミドリちゃん……ありがとう、……」

助けられた事に対して、礼を告げる

「……キミドリちゃん……いなかったら……今頃……」
「アンタ、―――ばか」
彼女が生きていた。ぶわ、と涙を溢れさせて
「"絶対に護る"なんて言っといてさ、死んじゃったなんて言ったら洒落になんないでしょうよ、」
ぼろぼろと、彼女は初めて人前で涙を流した


彼女は、それを言われると、恥ずかしそうな表情を見せた
「……ごめんね」
それから、申し訳なさそうに笑いかけた



その後駆け付けた芝南達と、救急車に御劔と縫手が運ばれていくのを見届けると、キミドリは

能力「色」の使い過ぎによる貧血のような代償に襲われ、ふらっと、意識を失い、後方へ倒れ込み――


その彼女を、受け止めて抱き締める男子生徒の姿があった

「起きてる?まぁ起きてなくても良いけど」

周布恋屋は緩く笑うと、意識を完全に手放し、疲れ切ったがどこか穏やかに目を瞑る彼女を姫抱きにして運ぶ
「全く、君も無茶するんだから……」

文句を伝えていた。いつも通り

「……でも、ま、ありんこ以上にはなれたんじゃない?


お疲れ、キミドリちゃん」



かくして、学園爆破事件と呼ばれる騒動はこれにて終わりを告げる
——この学園での騒動は、に限った話では有るが。



赤紫キミドリ、芝南稔 by jin.
縫手御傷、御劔江苗、周布恋屋 by kimi.
23. 色 了(20151228)
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