――人知れず、悲鳴が響いた
――人知れず、誰かが殺された その路地裏で、人殺しが行われた
「アァ~~~、久しぶりの外だァア」
返り血に濡れたその男は、足元の死体から空を見上げ、両腕を広げる
髪の毛は以前よりも短く斬られており、盗品のコート等は、再び何処かから盗んでこなければならなかった 彼は美弦萌百合
連続殺人鬼と呼ばれた男だ
ゆらり、とそちらを向いた
「何だァ……ガキィ、興味あんのか?」
けたけた、けたましく笑う
丁度彼は日課を終えたばかりだったので――
「普通のガキならションベンまみれで泣き叫んでる所だなァ、勇気あるぜェお前」
――その少年を殺す気は、ほぼ無かった
というよりもむしろ、『己に質問する』という度胸を買ったのか、やや上機嫌になった
「風だ、風で斬った。俺ァアザナだよ。美弦萌百合。知らねェか」
少年へと向き直り、名乗る
さしもの彼もこれには――驚いた
今まで生きていた中で、泣き出す人間か死んだ人間しか見てこなかった彼は、憧れるような振る舞いをされることに馴れていなかった
「……なんだよ、お前ェ――頭おかしいなァ中々、クヒャヒャ」
答えていくが、動揺は隠しきれない
「俺のこと知らないたァ、テレビ家にねェのか?今ニュースになってんだろォ、散々」
子供に歩み寄ると、しゃがみこんで、目線を合わせる
訝しげな顔つきだ
「アン、なぁ坊主――そんな格好良いもんじゃねぇんだよ。……わかんねぇのか、お前」
この年の子供が威勢からそのように言ったとも思えない
彼は、抗えない殺人衝動に、普通に人と生きられない自分は――
――そんな自分を誉められるなど、思っていなかったから
「……」
彼もようやく、少年の異常性に口をつぐみはじめた
自分も狂っている部類だと思ったが、理性はある。いちおうまともな倫理観は多少なりともある
だが、彼は、なんというか――
「……お前、親どうした。居るのか。……ゲームはやってるもんなァ?」
問いかける
この年頃となれば、教育はどうなのかという疑問に行き着く
「……」
吐き気がした
子供に中途半端にこういう育て方をするのかと
自分はこんなにも――こんなにも――始めから普通ではなかったことが、苦しかったのに
何故、普通に生きられるはずの子供が、こんな風に育たなければならないのだ
彼からその言葉を聞いた瞬間、男は先程の上機嫌を汚された気分になった
「――俺と来い、クソ坊主。ゲームでも何でも持って来ていい」
質問には答えなかった
「てめェを――てめェはいずれ、俺になる。俺は困る。俺はこの世界に一人で充分だ」
迷惑なんだよ、と吐き捨てると、
「てめェを更正させる」
それだけ言って、立ち上がる
「……そこのケチャップバーガー」
ハンバーガーショップの名前を伝えると、そのまま路地裏の入り組んだ場所へ歩いていく
数十分後――やがて彼の下に、リュックサックに携帯ゲーム器と充電器を詰め込んだ少年が、結わえた髪を揺らしながら駆け寄って来る
適当に買い与えたポテトを貰い、わーい!と嬉しそうにかぶりつく少年と共に店を出る
そうして彼は、この少年を引き取ることにした
「お前、名前は」
ああ?なんだその名前、と人の事言えないのに
「じゃあ雷だな、動物よりはマシだろォ」
そう言って、笑った
――人知れず、誰かが殺された その路地裏で、人殺しが行われた
「アァ~~~、久しぶりの外だァア」
返り血に濡れたその男は、足元の死体から空を見上げ、両腕を広げる
髪の毛は以前よりも短く斬られており、盗品のコート等は、再び何処かから盗んでこなければならなかった 彼は美弦萌百合
連続殺人鬼と呼ばれた男だ
「………ねえ、」
そこに――おそるおそる、ほそりと、息遣いに近い声が聞こえる
彼の後方から、まだ10にも満たない少年が、震えながら問い掛けた
「どうやって…切ったの……?」
そこに――おそるおそる、ほそりと、息遣いに近い声が聞こえる
彼の後方から、まだ10にも満たない少年が、震えながら問い掛けた
「どうやって…切ったの……?」
ゆらり、とそちらを向いた
「何だァ……ガキィ、興味あんのか?」
けたけた、けたましく笑う
丁度彼は日課を終えたばかりだったので――
「普通のガキならションベンまみれで泣き叫んでる所だなァ、勇気あるぜェお前」
――その少年を殺す気は、ほぼ無かった
というよりもむしろ、『己に質問する』という度胸を買ったのか、やや上機嫌になった
「風だ、風で斬った。俺ァアザナだよ。美弦萌百合。知らねェか」
少年へと向き直り、名乗る
「かぜ…」
目を見開く
その瞳は、
「……風…風って、すげえな!!」
――きらきらと、輝いていた
「びつるもゆり?知らない!有名人なの?サインくれる?!」
――知らない、という
世に名を轟かせた連続殺人犯を知らないとは、いかに無教養な子供なのか
死体も、彼の事も怖がらずに好奇心を秘めた表情で近付いて来る
目を見開く
その瞳は、
「……風…風って、すげえな!!」
――きらきらと、輝いていた
「びつるもゆり?知らない!有名人なの?サインくれる?!」
――知らない、という
世に名を轟かせた連続殺人犯を知らないとは、いかに無教養な子供なのか
死体も、彼の事も怖がらずに好奇心を秘めた表情で近付いて来る
さしもの彼もこれには――驚いた
今まで生きていた中で、泣き出す人間か死んだ人間しか見てこなかった彼は、憧れるような振る舞いをされることに馴れていなかった
「……なんだよ、お前ェ――頭おかしいなァ中々、クヒャヒャ」
答えていくが、動揺は隠しきれない
「俺のこと知らないたァ、テレビ家にねェのか?今ニュースになってんだろォ、散々」
子供に歩み寄ると、しゃがみこんで、目線を合わせる
訝しげな顔つきだ
「テレビ?ないよ!スマホあれば充分だし…ニュースかあ、全っ然見ないから」
無邪気に答えながらさらに近付く
「サムシャのフーマみてえ……、アザナってそんなに格好良いヤツもあんだ」
ファンタジーゲームのキャラクターを想起しながら呟いたあと、彼にこびりついた血の匂いにぐえっと鼻をつまみながらも、目線が近くなった彼をじーっと見つめた
無邪気に答えながらさらに近付く
「サムシャのフーマみてえ……、アザナってそんなに格好良いヤツもあんだ」
ファンタジーゲームのキャラクターを想起しながら呟いたあと、彼にこびりついた血の匂いにぐえっと鼻をつまみながらも、目線が近くなった彼をじーっと見つめた
「アン、なぁ坊主――そんな格好良いもんじゃねぇんだよ。……わかんねぇのか、お前」
この年の子供が威勢からそのように言ったとも思えない
彼は、抗えない殺人衝動に、普通に人と生きられない自分は――
――そんな自分を誉められるなど、思っていなかったから
「……えー?格好良いじゃん!格好良く無いの?」
鼻をつまんだ声で むむ…と悩ましげな顔
「………わっかんない!とりあえずすっごい臭いだよ……お風呂入って来ないとね」
むむーーー
鼻をつまんだ声で むむ…と悩ましげな顔
「………わっかんない!とりあえずすっごい臭いだよ……お風呂入って来ないとね」
むむーーー
「……」
彼もようやく、少年の異常性に口をつぐみはじめた
自分も狂っている部類だと思ったが、理性はある。いちおうまともな倫理観は多少なりともある
だが、彼は、なんというか――
「……お前、親どうした。居るのか。……ゲームはやってるもんなァ?」
問いかける
この年頃となれば、教育はどうなのかという疑問に行き着く
「いるよお」
鼻を摘みながら普通に答えながらもそのまま死体の方に行って、うわあーと見ている
「居るけどさぁ、忙しいんだってさ……。スマホとかゲームは買ってくれるから暇ではないんだけど……だから大体LINEで話してる」
グロテスクであろう死体をなんてことない様子で眺めてから、また彼の方に戻って来て話題転換
「ねえね!!おれももゆりさんみたいに"風"でザックーって出来るようになれる?!」
それはそれは、楽しそうな顔で
鼻を摘みながら普通に答えながらもそのまま死体の方に行って、うわあーと見ている
「居るけどさぁ、忙しいんだってさ……。スマホとかゲームは買ってくれるから暇ではないんだけど……だから大体LINEで話してる」
グロテスクであろう死体をなんてことない様子で眺めてから、また彼の方に戻って来て話題転換
「ねえね!!おれももゆりさんみたいに"風"でザックーって出来るようになれる?!」
それはそれは、楽しそうな顔で
「……」
吐き気がした
子供に中途半端にこういう育て方をするのかと
自分はこんなにも――こんなにも――始めから普通ではなかったことが、苦しかったのに
何故、普通に生きられるはずの子供が、こんな風に育たなければならないのだ
彼からその言葉を聞いた瞬間、男は先程の上機嫌を汚された気分になった
「――俺と来い、クソ坊主。ゲームでも何でも持って来ていい」
質問には答えなかった
「てめェを――てめェはいずれ、俺になる。俺は困る。俺はこの世界に一人で充分だ」
迷惑なんだよ、と吐き捨てると、
「てめェを更正させる」
それだけ言って、立ち上がる
「――?」
よく分からない様子で見上げていたが、はっ…!と何かに気付いた素振り
「俺と来い!!!!!!かっけえ!!!!!!俺は家を捨てて旅に出るってわけだ!!!!」
本当に、現実とゲームの区別がついていないというか――
「よく分かんないけど、行く行く!!もうゲームも全部やり尽くしちゃったし暇だったんだ」
へへへ
「わかった!!!どこで落ち合わせる?!!!」
一貫して楽しそうに
よく分からない様子で見上げていたが、はっ…!と何かに気付いた素振り
「俺と来い!!!!!!かっけえ!!!!!!俺は家を捨てて旅に出るってわけだ!!!!」
本当に、現実とゲームの区別がついていないというか――
「よく分かんないけど、行く行く!!もうゲームも全部やり尽くしちゃったし暇だったんだ」
へへへ
「わかった!!!どこで落ち合わせる?!!!」
一貫して楽しそうに
「……そこのケチャップバーガー」
ハンバーガーショップの名前を伝えると、そのまま路地裏の入り組んだ場所へ歩いていく
数十分後――やがて彼の下に、リュックサックに携帯ゲーム器と充電器を詰め込んだ少年が、結わえた髪を揺らしながら駆け寄って来る
適当に買い与えたポテトを貰い、わーい!と嬉しそうにかぶりつく少年と共に店を出る
そうして彼は、この少年を引き取ることにした
「お前、名前は」
ポテトをもぐもぐしながら、彼は年相応の笑顔を見せた
「志乃芽雷音(しのめ らいおん)!
雷の音で、らいおん!――かっけえだろ?!!」
「志乃芽雷音(しのめ らいおん)!
雷の音で、らいおん!――かっけえだろ?!!」
ああ?なんだその名前、と人の事言えないのに
「じゃあ雷だな、動物よりはマシだろォ」
そう言って、笑った
二人を、月明かりが照らしていた
志乃芽雷音 by jin.
美弦萌百合 by kimi.39. 美弦萌百合&志乃芽雷音(20160201)
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