スカイビルラクスにて、入り口前に立つ面々は、

「……蛍火、怪我は大丈夫なのか?」
「平原こそ!!!!!!!!!俺は大丈夫だ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

平原星螺、蛍火ほたる。負傷しつつも、彼等はこの場所にシェパードがいるという情報をGODから聞いていた

「――全く、貴方方は緊張感を持つべきです!!しかしその意気やよし!よしです!!」

「それはどっちなんだよ、論佐……」

眠吹子、論佐理人もいる。そして、その隣には祷忠且も笑いながら立っていた

「……で、質問なんだが、」

平原星螺はちらりと見やり

「何故学生も居る?」

「あは、ははー、……」

いわゆる、高校勢がいることに提議していた
御劔江苗――彼女も残党狩りに徹しているうちに、居場所を知ったクチである

(キ、キミドリちゃんどうしよう!私怪我治してここに来ちゃったけど、あの人たちいるなんて聞いてないしっ!!)
("正"は、学生なんかに劣らないくらいには無能じゃない…って事なんじゃない)
微妙そうな顔で眉間に皺寄せながら答える
「…お気になさらず。ここのお嬢様はそれなりに強いので」

「は、はひぃっ、」
隣のえびょーを手で緩く示しながら正に告げた



「ふむ。……祷さん」

「いいんじゃないかい?彼等の自信に任せてみるのも……」

微笑みかける祷は、「それに、何かあったとき彼等を護れるくらいの強さはこちらにあるからね」と 補足していた

「わたくしも御劔さんをお護りいたしますわ!」

「私も迅速にお護り致します」
花伝院さゆらと無芸梨理恵も意気込んでいた



楽しそうに笑っているのは周布恋屋である

「ありんこちゃんは僕が護ってあげるよ。弱いから」

うぜぇ

「そう。アリガトウ」
口元を隠したままいつものように言う


「ああでも見捨てようかな?どうしようかなぁ」

楽しそうに笑って

「――ありんこちゃんは僕が居ないとだめなんだから」


「……別に構わないわよ、好きにして」
そちらも向かずに

「アタシは別に平気よ、でも、確かに……誰か一人でも失うと、アタシは駄目になる。だから…まずは自分の身を護りなさい」
彼と目を合わせずに居るが、その気持ちは真摯なものだった


それを聞いて驚いた表情
それから、また楽しそうに笑った

「ふーん。まあ適当に善処してあげる。ありんこちゃんは寂しん坊だからね」

それから――ふと、小声で

「――僕も君を失ったら、きっと」

呟いたけれど、きっとそれは、届かない



「……水瓶、ほどほどにな」

「ほどほどねぇ。あたしには加減というものが分からん……という冗談は止めておこうか?くくくっ、」

たくさん人がいる中でも、芝南の隣でいつも通り笑う

「上手くあたしを使えよ。心配は無用だろうが」

「だから俺を買いかぶり過ぎだっての、…」
苦笑しながら返す芝南は、嬉しそうでもあった


そうして、彼等はスカイビルラクスの中へ乗り込んだ





その後彼等が向かうと、ホールには多くの武装した人間が居ただろう

「みっなさぁああああああああああん?!」

メガホンを持って叫ぶ少女は、いやみたらしく笑って彼らを出迎える

「さあ!始まりました――『GOD』 vs 『正』の皆さんのバトル!!
この軍勢に勝てるって言っちゃう馬鹿は、まさか『正』にはいませんよねぇええええ!?!!!」

彼女は挑発する
侮っているのだ、彼らを――



平原星螺は鎖を出す
蛍火ほたるは拳を鳴らす
論佐理人は眼鏡を上げる
眠吹子は腰に手をやる

「『勝てる』!!!!!!!」

そうして『正』は、猛然と敵をなぎ倒し始めた



御劔江苗は次々と敵の足元を凍らせていた

「ごめんね!凍傷にはしないから!」

武芸の動きで敵を沈めていく
無芸梨理恵は両手を合わせ、ゆっくり離すと、電撃が走る
敵を雷で撃ち落とし、小柄ながらも生徒会長の大柄な動きをサポートするかのように動いていた


「――あひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!あひゃ、あひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!!!!!!」

彼のことを護りながら、リストカットした手首から血液が溢れる

「――上手く使えっつっても、」
彼女が薙ぎ倒して行く様を見ては
「……なあ、俺居ない方が――」
自分は邪魔じゃないかと、戦いに夢中になっている彼女に伝えようとしたとき――不意に飛び込んで来る敵の影に気付いた
「――水瓶、上から来るぞ!!!!!!!!!!!!!!」



「――」
それを見上げると、ふ、と笑った
「――血が足りないなぁ――」
にたりと笑うと、カッターで服ごと腹部を斬った。ちらりと見えた腹部にも――『沢山の傷跡が在った』

「――流石あたしの、御主人様だ!!!!!」

血液が獣の口のようになると、頭上の敵目掛けて覆い尽くしていた


周布恋屋は戦っている
ひゅ、と鞭が彼女を縛り上げ、引き寄せた
「こっちおいで」
それから鞭が外れると、再び振るわれる


「――随分余裕あるわね、自分の身を護れって言ったでしょ?」
引き寄せられたのち彼に背を預け、周りを見据える



「僕は自分より弱い相手しか選んでないから」

最低ですね

「いざとなったら君に助けてもらうから。利用するの」

「――それに、君の能力はあれだけじゃないだろ?」


問い掛けられれば、見据えていた目を更に据える

「……もちろん」

両手の平を上に向けると、ドギツいショッキングピンクのインクが溢れ出る
その両手を――パァンッ!と合わせた
すると目を合わせていた、こちらに向かって来ていた敵の一人がうわあああと狼狽する声を上げながら両目をおさえる

「いわゆる目くらましよ」



ふ、微笑みかけ、ショッキングピンクで視界が覆われているその敵に向かって鞭を振るった

「良い子良い子!ご褒美にキスしてあげようか?」
「いらないわ。お願いされてもお断りよ」


その後、鞭を一周させて周囲を片付ける
彼女へ満足そうに笑いかけると、次の敵の殲滅に向かった


そうして敵をさばき、戦っている最中、背後――入り口の方から敵がなだれ込んでくる
――挟み撃ち

「101匹わんちゃんとはこのことですわね…!」
江苗の背を護るように、やや怒っているようにも見える真剣な顔で新手の方を向き、糸を繰ろうと手をかざした瞬間――、新手の中から叫び声が聞こえた


「1977354+4865-46668321×80..」

次々に新手が倒れていく中、数式を早口で唱える凛とした声も聞こえて来る

「えい!!おらーっ!!」

ばたばたと薙ぎ倒す音と共に叫ぶあどけない声も


――何も持たない手刀が、巨大な筆が――それぞれが、新手の敵を一気に両脇に凪払った
再び開けたそこには、Million、カイム、小熊花男が立っていた

「―――、」

ポケットに手を突っ込んだままふとすぅっと息を吸い込み、小熊は



「文句あっかコラァアアアアア??!!!!??!!!!!!!???!!!!文句あんならお前等もぶっ殺してやんぞオラアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


――今彼等は、GODのみと戦うつもりであるから





「――!!!!!」 一同が振り返る。
――祷はそれを見て、ただ、楽しそうに微笑んだ

すう、と息を吐き、叫び出したのは――蛍火ほたるだった


「おッ、前ぇえええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!生きていたのかぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!助けに来てくれたのかぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!! ――助かったぜえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッ!!!!!!!!!!!!!!!」

彼は小熊花男を敵と認めこそすれ、救援として駆けつけてくれたことを喜んでいた。

それをうるさそうに聞いていたが、隣に立っていた眠吹子も微笑む。
「……あの時よりいい面構えになったじゃねぇか」
穏やかというよりも、彼女らしいニヒルな微笑みを、彼に向けた。

その際に、祷の耳元に通信が入る。
小型の無線マイクからの声は、南部来富岳――彼の職場での上司、兼ねてからの友人の声であった

"――聞いてくれ。敵は、三階の中央階段に居るみたいだ"

分かった、とだけ呟くと、新たに来てくれた味方こそが、『今最も戦える戦力である』と――判断し、そちらを見た
「頼みがある。すまない、……着いて来てくれないか」




初対面だが彼がリーダー格であることは察した、だがそれでもいつものように
「受けて立つぜゴルァアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!」と叫び返し、無論Millionとカイムも彼に続いて着いて行った


二階に到達し、再びまみえる敵の大群――すると、「HEEEEEEEEEEEEEEEEY!!!!!!!!!」と高らかな声が聞こえる
窓から、自らの能力の龍に乗ったテレサと――その龍に乗った小童子とちくわ丸が現れ、飛び込んで来ては敵を薙ぎ倒して行く
「ここはあたし達が引き受けるから!!」
「花男くん達は先に行っていてくれ!!!!」

旗をぐるぐる回し構え直した小童子が、旗の棒で敵を薙ぎ払う
ちくわ丸も向かって来る敵を正確に、確実に峰打ちで打ち倒して行った
「助かるぞオラアアアアアアアアアアァアアアアアぁぁあぁぁあああ!!!!!!!!!!!!!!!!よしっ行くぞMillionカイム!!!正のオッサン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

彼等が開いてくれる道を突き進んで行く
その前に立ちはだかろうとする敵でさえも――テレサの龍が暴れ回ってさらって行った

「…強過ぎじゃない?この人達」
「僕らも負けてないよ」
引いてすらいるカイムとにこにこ笑うMillionだった



---


四人が中央階段に辿り着くと、ラブラドールが睨み付けるように立っていた


「……、来やがったな……」
クソ女共々、久しぶりの奴等もいるな、とぼそ、と呟く 「……てめぇら生きる価値ねぇんだ……全員死んどけって……!!!!!言ってるだろうが!!!!!!!!!!!!!!!」

叫んだ瞬間、重力の空間が生まれた

先手とも言うべきか、彼は既に部屋の四方にナイフを刺している 更にナイフを取り出すと、真っ先にカイムの元へと飛び出した

「――てめぇからだああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!!!」



「――ッ」
二度目に味わう重力に、カイムは持っていた普通の大きさの筆を構え、攻撃に備えようとしたが、
「96375549×446192!!!!!!!」
その前にMillionが叫ぶと、カイムの前に錬金術のように地面から壁がせり上がり出現した

「うぜぇ……うぜぇうぜぇうぜぇうぜぇうぜぇ!!!!!!!!!!壁なんて出して生意気なんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」
か、とナイフが壁に当たり、回り込もうとする――
――ナイフを壊さないと、明らかに不利!
カイムが壁に一時的に塞がれた彼の能力に悪態付き、それでも筆を大きくしようとした瞬間――


「……、そうだね、」

ぽつり、祷は呟いた

「君には少し、止まって貰おう」

すると――ラブラドールの体が、ぴしり、と固まった

「――……動か……ッ!!!!!てめぇ、アザナ!!!!!何を――」
祷へと叫ぶラブラドール



「――、」

能力に驚き目を見開いたカイムは、最早動けない的になっている彼に――ふ、ふふ、と笑い出し

「たこ殴りの運命ってわけね!!!抵抗する手段は皆無、覚悟―――、」
「――カイム!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

不意に、小熊が叫ぶ
ビクリと肩を震わせそちらを向けば――彼は何故か切羽詰まったような、辛そうな表情でこちらを見上げていた


「………リンチは、……こえぇだろ」


そのまま目を伏せ、ふ、と息を吐き、自らの能力を発動するべく集中する
歪められた重力により地面についた手をひっくり返し、手のひらを見せると――一輪の「花」がそこに現れ、握る

"眠らせる"効果の花、その香りを――彼に嗅がせようと意識を集中させた
ふわり、とラブラドールに向かっていく花の軌跡



「な、何!!!!!何すんだ!!!!!殺すなら殺しやがれ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!殺して恨んでお前たちを呪ってやる!!!!!!!!!!!!!!!」
ぎゃあぎゃあと叫び出し噛みつくように吠える
「てめぇ殺してやる、アザナ!!!!!!!!!!気持ち悪いんだよ、殺してやる殺してやる殺してやる!!!!!!!!!!!!!!!」

ほぼ泣きながら、愚図る子供のように騒いで、花男を睨んだ

「……ぅ、……ごろじて……やる、……」

最終的にはぼろぼろと泣き出し、かくり、と花の効果で眠り始める

その頃には拘束も解かれ、ふらり、と倒れるだろう。――泣いていた



彼が眠ったことにより、歪められた重力から解かれ――小熊達はゆるりと立ち上がる
何を考えるのか――、使った花の花びらを数枚、ひらりひらりと眠るラブラドールのそばに落とした後

小熊は何事もなかったように「あァ、」と祷の方に振り向いて


「留哉先輩はもう、GODボスのとこに着いてると思うぜ」



それを聞いた祷は、ふむ、と頷く

「……、よもや、先を越されるとはね」

苦笑いをすると、彼も階段を駆け上がり始めた




「新約説のリーダーさん」


シェパードの後方から突然留哉の声が聞こえ、そこに立っているだろう
本当に、突然、侵入した気配など感じないくらいに

――恐らく、彼の能力だろう





「――あら?あら、あら。ようこそ、殺人鬼さん」

それは、心許ない歓迎だった

振り返る――笑顔である。だがそれは、どれほど穏やかであっても嘲笑と同義だ

「貴方は――そうですね。私を殺しに来たのでしょうか?」

ただ、問いかける。白いドレスは、揺れることも無く


「…………」
彼も穏やかな笑みを浮かべていたが、その言葉を聞くと眉をひそめ真剣味を帯びた表情に変わって行く

「………殺さないよ。俺は貴女を止めに来たんだ」


「――どうして、こんな事をしたんだ」

真摯に、眉間の皺を深めながら問い返す



「――どうして、どうして、ですか。……理由など必要あるのでしょうか?アザナは生きているだけで罪なのです」

それからは――正に、『話が通じない』それだった

「貴方達は――力に溺れ、依存し、力無き人々を搾取する事しか考えていませんもの――」
ふ、と微笑む
「弱き命を護ろうとしているのです――これは正当防衛ではなくて?」
そうして、彼女はのたまった

悪魔で正しいのは、自分なのだと



「…………そんな事は無い」

怒号に近い色だったが、彼の声は静かに彼女に訴えかけていた

「アザナが全て自分勝手に傲慢に生きていたら、今この世界は存在し得ないくらいに滅茶苦茶になっているはずだ。――貴女達は、貴女達がやったことは、どれだけ罪のない人を殺すことか、本当に分からないのか――?」




「私は世界を洗浄しているのです」
彼女は、両腕を広げた

それは合図のようだった

彼女の反論を発言するための――
「――それに貴方だって同じでしょう?憎むべきものを排除する。 ほら――私達は似た者同士じゃありませんか」


「いや、それは違うね。彼等は曲がりなりにも信念があるが、君達は完全に私利私欲だ」


扉が開いた

――それは、彼だった

逆光に照らされた姿は、ひどく肩で息をしていたようだった 祷忠且は、彼女ではなく、ただ目の前の宿敵たる男を初めて見据えた


「やあ――初めまして、継舟留哉」


「―――」

振り返り、顔を合わせると、この期に及んで、表情を緩めた

「………初めまして――正の組織長さん」


だが、不穏な空気を感じ彼女の方を見る

「……何を悠長に話しているのでしょうか――」
ゆるり、シェパードは微笑んだ

「そうですね。役者が揃った所で、私達はこの場で死ぬことに致しませんか?」

胸元から取り出し、手に持ったそれは掌ほどの小さなスイッチだった

爆弾、――起爆スイッチ。では、爆弾は何処に仕掛けたか?

「私もろとろ、死ぬ事に致しましょう――『さようなら』」 スイッチを押す。己の胸を触る


その間、祷が彼女を見る。彼女の動きが固まる

だがなんてことはない様子で、『彼女の体内』からピ、ピ、と電子音が鳴り響いた
「!!自爆する気だ!!」

「―――、」

咄嗟に祷に叫ばれ――駆け出した彼は自分を通りすがり、彼女を突き飛ばす
そのまま最上階後ろのフロントガラスが砕け、正の組織長、彼自身の体ごと落ちて行く瞬間まで――、


継舟留哉は、


(――――駄目、だ)


だが、――どうすることも出来なかった


左手を、祷に向ける

すると、落下する彼の姿が、

"消えた゛




白いドレスの彼女が落ちていく様を、悲しそうに辛そうに見詰め――、目には涙の色さえ見えた


「――…………悪い。救えなかっ、た」





彼女は、ゆっくりと瞳を閉じた

さしもの彼女であったとしても、突き落とした彼が消えた様子には驚いていたが
「――……」
そうして、ひとり爆弾のスイッチが鳴る

ゆっくりと、走馬灯が駆け巡り始めた

――思い返したのは、初々しく警官服を着た自分だった
犯罪は数多くある。彼女の部署は一般人の事件専門だったが、時にはアザナの犯罪も取り扱っていた

許せなかった。武器も携帯出来ないこの時代に、最初から許された武器で犯罪を犯す彼等が
ある時期、自分と同じくアザナではない上司が居た

彼はアザナも普通の人間も同じだと語り、犯罪を行う人間は皆理由があると語る人だった

彼女は、それを詭弁だと思っていた。同時に、どれだけ優しい人なんだろうと思っていた。嫌いな優しさだった

ただ彼に仕事で従っているだけだと自分に言い聞かせながら、彼の親愛ぶりを疎ましく思いながら ただ彼がアザナに殺された時だって、何も思わなかった 何も気にしない、何も感じない

だから『アザナを殺そう』と思ったのだって、彼の事なんて何も関係無い
関係無いのだ

こんなはずではなかった

こんなはずではなかった

こんなはずではなかった


「――否、私は間違ってないわ」


スカイビルから落ちる影が、宙にて赤い炎に包まれた




爆風にガラスが割れる
ちくわ丸は眠るラブラドールを庇うように、テレサは更に龍で皆を庇うようにして

「……本当に…自爆しちゃったの」

スパニエルに言われた言葉を思い出し、野心はぽつりと呟いていた





「――!!」

爆発が収まったあと、"消"されていた正の組織長は、留哉により再び落下途中の状態で元に戻される
彼が姿を消してから戻って来るまでの時間、彼は一切の記憶が無いだろう。本人からしたら、突然シェパードが消えたような感覚だろうか

それに驚くも――留哉が助けてくれた事だけは理解し。そうして落下していた彼は、テレサの龍に背に落ち――そのまま乗せられて地面まで連れ降ろした


正と道が初めてしっかり対峙した瞬間であった



「……」

言葉を失ったまま、彼等は対峙した

――口火を切ったのは祷忠且だった

「……助かった、継舟留哉。君がいなければ、私は爆発していたからな……」

もとよりその覚悟のつもりだったと

「……だが、寿命が延びてしまったな。ありがとう、助かったよ
祷は頭を下げて感謝する

それに対し、星螺はすこしだけ嬉しそうに笑っていた

「……君達の処遇に関して、私はこの状況では何も言えないだろう。だからこそ、書類上は『君達が居なかった』事になってるはずだ」
黙って聞いていた留哉は、眉を下げて少しだけ笑う
「……そうか。感謝……、出来る立場では無いが……、」
見逃してくれてありがとう、等と言う人間では無いが――ただ一度だけ軽く、頭を下げた


祷が星螺ちゃんの背中を叩く

きょとんとして頭をあげた彼女に微笑みかけると、いっておいで、と言いたげな目をしていた


「………星螺ちゃん」
ちくわ丸は侍姿のまま、彼女が近づいて来るのを見ると――こちらもそうっと歩み寄る
「無事で…、また会えてよかった。……星螺ちゃん」
ぽん、とそっと頭に手置き、穏やかに目を細めながら見ていたが、ふと気付いたように着物の中を探り

「………クリスマスプレゼント、」

ラッピングされた小包を渡す。中には星のデザインのシュシュが入っていた



瞳を見開くと、わあ、と声をあげて受け取る
「……久し振りだ、誰かから、プレゼント貰ったのは……」
シュシュを受け取ると、髪にくくりつける

帽子を取り、ポニーテールのようにまとめると、彼女の長い長いロングヘアーから顔がよく見えて、幼さが伝わるような表情が現れた

似合ってる、と思った
すごく可愛いな、とも思った

彼女が嬉しそうに受け取り、髪を結った様子に表情が緩む


「太郎!ありがとう」

嬉しそうに言うと、彼に抱き着いただろう

「わあ……ふっ、はは、」
破顔した彼は、彼女を包むように抱きしめ返した


本当の父のように、本当の娘のように



「……」

眠吹子は小熊花男を眺めて、ふ、と笑っていた
目があって彼女を少し見つめ返し
「………久しぶりだな、ねぇちゃ」
「おおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!次会った時は、また敵同士だぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!――だがなっ!!!!!」
びし、と蛍火は指差して

「お前は優しい男だ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!だからこそお前を!!!!!!!!!!!!!!!俺は愛している!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「は??????」
何故か赤面した
「ば、は、あ」
「おま」
「てめえの名前教えろや!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!愛してるなら名前くらい覚えてやるよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

混乱したままよく分からない返答を返していた





「はははっ!!!!!!!!!」
楽しそうに笑う。――本当に楽しそうに

「俺は蛍火ほたる!!!!!!!!!!!!!!!覚えとけ、お前を倒す男の名だ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
再び指を指すと高笑いし、そのまま彼の背中をばんばん叩く
「覚えやすい名前で助かるぜバカヤロウ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!俺は小熊花男!!!!!!!!!!!!継舟留哉先輩を愛した男だ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
赤み残ったまま、遅れて先ほどの台詞に張り合って叫んでいた


「……ああ、うるせぇ……」
げんなりした眠吹子は、額を押さえるように呟いていた


「………………」
野心は論佐をじとりと、いつぞやのように見ていた
もし目があったらふいと逸らす


論佐理人は眼鏡をくいっとしていたが、少し視線を逸らしたようにも見えた


「……じゃあ、行くぞ、お前ら」

留哉は言うと、最後にいのりを見つめ、特に何も言わずに踵を返し、皆もそれに続く
「See you バイバーイ!!」テレサが明るく手を振っていた


小熊は、一人、横たわり眠っているラブラドールに近付く
そして先程のように一輪「花」を出して――ラブラドールの髪にさした

"カルミア"。笑顔、という花言葉がある。大きな希望、という意味も

「………」
いつか年相応に笑えば良い、と

きっと彼が起きたら捨てられるだろうことも容易に想像できるが
花言葉を詳しく知る彼は、軽い気持ちで、しかし優しさから来るそれをした

少し見下ろしたあと、正の視線を知らんぷりするようにケッ!!!!と悪態つき遅れて留哉たちについていった




「……優しい子だね、蛍火君」
「そう!!!!!!!!!!!!!!!凄くいい奴なんです!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

帰っていく道のメンバーを眺め、彼等はつぶやく

いずれ戦う日が来るのだと―― そうして、花を飾った今回の事件の落とし子を抱き上げた




わはーい!!と花伝院さゆらに抱き着きながら、御劔江苗は笑った

「お疲れ!!皆!!」

いえーい!と喜んでる


「お疲れさま、ですわ」
軽く江苗を抱き留めながら彼女もみんなを見て安堵したように笑う

「そうそう!!江苗ちゃんのおうちでパーティーしようよー!」
わっ!と楽しそうに言う。さゆらに頬擦りしてると、無芸がむっと怒っていた

「…大丈夫か?」
その隣で、水瓶を心配する芝南

「……あたしは大丈夫だ。お前こそ、傷の手当ては早くしておけよ」
喧騒が嫌いなゆえに、ちょっと疲れた様子の水瓶
それを見る彼に労るようにぽんぽんと軽く頭を撫でられると、瞼を落としていた

「……実際、足手まといにはならなかった、って思っても良いのかしら」

「そうじゃないかな?ま、それを決めるのは――」
キミドリの呟きに対し、笑いながら返していた周布
それを止めたのは、正組織長、
「――?」
祷が歩み寄って来たのを見て、疲れたように眉間に皺を寄せたままそちらを見るキミドリ


「君達、ありがとう」

祷忠且だ

「君達のお陰で、あの組織を壊滅することが出来た」

そこで、

「――ひとつ、提案があるんだが、良いかね」

なになに?とそちらを見る江苗


「――君達、正に入らないか?」

「いいよ?」

と、緊張感ある誘いを軽く受け入れたのは生徒会長だった
祷も笑いながら固まり、あ、と生徒会長は今更驚いてる

「やな人いる?」

見渡しながら、不安げに


「い、嫌では…無いと思うけど」
キミドリ少し動揺してる
「ただ、心の準備みたいなものがあるでしょ……あんたとは違うのよ」

「キミドリさんの言う通りです、貴女は即決し過ぎですよ」
「ええー、色んな人をいっぱい護れるんでしょ?それっていいことだと思うんだけど……もちろん危ないのは分かってるし……」
嫌な人は決めなくていいんだよ、て
「わたくしは御劔さんがお入りになるのでしたらお供しますわ」
即答院さゆら
「……水瓶はどう思う」

「あたしは芝南に従うだけだ」
ふ、と瞳を伏せてつぶやく
「何はともあれ――」
周布が嘆息ついて
「時間くれるの?おじさん」
「ああ、考える時間はもちろんあって構わない」

「……アタシはもう少し時間が欲しいです」
「…じゃあ俺も」
敬語キミドリに続く芝南


「分かった」
と祷が笑いながら答える
「僕もかなぁ、あんまりそういうの興味無いし……」
「……」
水瓶は何も言わずに
「……私は入ります」
無芸梨理恵は了承した





その際に、駆け寄ってくる警察官の存在に気付いた

「た、大変です!!大変ですぅ!!」
「どうしたんだ?」

血相を変えた様子の彼に問いかけると、彼は息を切らしながら



「美弦萌百合が、脱獄しました!!!!!」



その時、平原は、すこし顔を歪めた




ラブラドール、シェパード、祷忠且、蛍火ほたる、平原星螺、論佐理人、眠吹子
御劔江苗、無芸梨理恵、周布恋屋、水瓶乙女 by kimi.
継舟留哉、ちくわ丸、テレサ・ハーパー、野心小童子、小熊花男、カイム、Million
赤紫キミドリ、花伝院さゆら、芝南稔 by jin.

38. 神(20160201)
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