アジトに入って来る影の方を見て、ソファに座っていた先客のテレサは
「……マタ殺して来たノ?」
眉をしかめて、不可解そうに問い掛ける。自分も同じことをしてるはずなのに、その人物を見る目は哀れみが含まれているよう


ぼさぼさの黒と茶の混じった髪、爛々とした瞳の狂犬病めいた雰囲気の男
美弦萌百合(びつる もゆり)は、返り血を浴びた状態で帰って来た
「お前ェも同じじゃァねェか、テレサ君よォ」
灰のパーカーに着いた血の跡と臭いは、ひどいもので

「ワタシは言われた人しか殺さないモノ。……アナタはチガウ…」
"人を殺すことを、愉しんでる"…眉間に皺寄せ、真面目な顔で
「今日はどれくらい殺したノ」
血の臭いに更に表情を険しくさせながら


「いやいや?広義じゃお前ら俺と同類だぜテレサ君、いやテレサ君達ィ」
にたァ、と異質な、気味の悪い笑みを浮かべる
「人を殺してる時点で皆同類だ、言われて殺そォが自発的に殺そォが、魂を奪(と)っちまってる時点で同類さ」
今日は二人だよ、とだらりと下げていた血濡れのナイフを地面に放る
「シャワー誰か入ってるか?次でいいからよ、入れさせてくれ」

「……but、…――」
言い訳を考えたか――何か言おうとしたが、自分では自分の気持ちを伝えられないと思ったのか、ばつが悪そうに横を向いたあと、ちらりと横目で見て
「……ルヤが怒るヨ、」
捨て台詞のようにそれだけ、聞き入れない様子にやや怒りを抱くように言って
「もうアナタだけヨ。勝手に浴びてッテ」
ぷん、と怒りながらソファに身を預けて視線を外して


おうおう、と、すっかり怒られ慣れた様子で居た
「別に、いつ殺されてもいーんだよ俺は。どうせこの先生きてても、ってなァ」
青年は緩やかに手を振ると、シャワーに向かっていった

「…………」
むす、としつつも悲しそうな顔で彼を見送る
「……モユリ…」
そろそろルヤが黙ってないよ、だとか、いつ死んでも良いから何をしても良い訳ない、なんて、そういうことを言っても通じないことは分かってる。だからこれ以上自分は何も言っても無意味だし、それが悲しくて言えない。そんな気がしてる。
日本語はムズかしい。
だからただ、彼女は黙って、彼のことを"悲しいヒトだ"と思っているだけで終わる。


美弦萌百合 by kimi.
テレサ・ハーパー by jin.

10. 美弦萌百合vsテレサ・ハーパー 了(20150821)
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