昼下がりの教会、いつも通り様々な人間が立ち入る中、武装した黒ずくめの集団が現れる
「動くな!!」
全員座るように促すと、十数名の顔を隠したそれらは、銃を構えた
どかどかと靴音を立て、不躾に踏み入ったそれらは、マスク越しに叫ぶ
「この中にアザナが居る場合、前に出ろ!!連行する!!教会の資材も出せ!!」

――特殊な力を持つ人間、そんな異例がこの世界に現れた場合
それらに反感を持つ人間というのも、当然現れる
今回現れたのは、救われる者が増えているという教会の噂を聞き付けた、反アザナ過激派のテロ組織だった

それは、この教会のシスター、エクリチュールの耳にもしっかりと届いただろう
やがてエクリチュールの姿を見付けると、やはり衣服からこの教会の関係者だと察したらしく、歩み寄った
「お前はアザナか?最近この教会の噂を聞くものでな、何かしらの能力を使って人を寄せ集めてるんじゃないのか」
が、と彼女に拳銃を向けるだろう
「どうなんだ、答えろ!!今なら殺さず、連行後に辱しめを受ける程度に済ませてやる!!」


「おやめください!!一体何事ですか?!」
エクリチュールは緊迫した表情で武装団を見る
人々が被害になってはならないと、とっさに飛び出して両手を広げる

相手を必要以上に刺激しないように基本的に従うが、声を荒げて訴える。銃を向けられ息をのむが、彼女が他者のために身体を張る姿勢は一貫していた
「……レーム教会を疑うのならこの私を連れて行って下さい。この方々は関係ありません!!」



事件が発覚し、通報により状況が打開したのは数十分後だった

緊張状態から数十分、奇跡的に誰も殺されていない状態から、教会の扉が不躾に開かれた
そこへ、女が飛び出してくる


「――ッ!!?」


飛び込んだ影は、彼女と雰囲気の似た笑顔を浮かべると、ぎゅっと踏み込んで
「おらっ!!」
恐るべき跳躍を見せると、テロ組織の一人を跳躍の軌道で蹴り倒した
「あんたシスターさんか!!早く人連れて逃げやがれ!!」
外見に似合わない粗暴な投げ掛けで、そのまま立ち振る舞おうとする
――その際、敵グループが煙幕を張った

「でっ、でも…!!」
煙幕の中、助けに来た女性――"眠吹子"に弾丸を発砲されてる音が響いた。狼狽するエクリチュールだったが、眠は「構うな!!」と叫ぶ。――彼女の言葉に、エクリチュールは心配しながらも頷き、状況に戸惑い怯える人々を「皆さん、私に続いてくださいっ!!」と引き連れていく

――が、入り口付近に現れたテロ組織の一人に、エクリチュールが思い切り殴り飛ばされる


その瞬間が見えた眠は、「くそっ!!」と悪態を吐きながらも、敵の処理から手を離せない――

——刹那、直後。男は後ろから現れた小柄な人物に頭を思い切り蹴り飛ばされた

「死ね。」


厚底ブーツの威力は伊達じゃない。男はエクリチュールの前に倒れ、気絶。彼女は新たな助っ人を見上げて確認すると、顔を輝かせた

「小童子さんっ!」


野心小童子は駆け寄って抱き締めるように彼女を立ち上がらせる

「エク、ごめん。痛かったな」

目に光は無いが心配げに見つめる野心に、エクリチュールは「小童子さんっ!」と思わず抱き着いていた。おわ、と野心は声を漏らしながらも、「みんなは早く逃げて!」と、開いた入り口から人々を逃がす
「そ、そうだ小童子さんっ、まだ中で戦ってる方がっ!」
慌てて言うエクリチュールに、野心は彼女を労るような表情になるが、シスターの真面目な表情に、今は゛力を借りよう゛、と頷く。
「――エクリチュール、"視"える?」
「はいっ」
エクリチュールの返事を聞くと、野心は彼女の手をぎゅ、と指を絡めて握り締める。一瞬赤くなるも、すぐに切り替え、エクリチュールは目を開いて――煙の中を"視る"。
すると同時に、野心が手のひらを上にして向けて手をかざし――ぐるん、と回した



――眠に向かって発砲、攻撃していた敵は、都合良く、彼女が攻撃しやすい順に次々突然驚嘆の声を上げて"ひっくり返って転げる"

どんどん敵がひっくり返っていく様子に、一瞬戸惑ったが、すぐにこの中に居る"アザナの能力"だと察した

「助かる、ぞっ!!」
表情は穏やかな笑みであるが、その動きはアクロバティックであり、拳や蹴りを駆使して立ち回る
瞬時に状況整理の思考が走る
(煙で見えねぇけど、特殊なアザナみてぇだな!!)
単純な"力"のアザナである眠は、このような能力でアシストされるのはとても助かる
だが、彼らがまだ煙の中に居る事を危惧すると、早めに片付けなければと
(うかつに呼び掛ける事も出来ねーし、めんどくせーな!!)

あらかた片付いた際に、ようやく「おい、居るか!!」と問いかけるだろう

煙が晴れ、喧騒が落ち着く頃には銃声も止み、全ての敵が伸びているだろう

眠がさばききれなかった敵は、どうやら野心小童子が一蹴していたらしい。何事もなかったかのような顔で辺りを見回していた
「お怪我はありませんかっ?!」
――繋いでいた手を離し、エクリチュールが眠に駆け寄る
野心も遅れて、無表情で歩み寄って来る


駆け寄ってきたシスターに、笑みを溢した
「いや、怪我はねぇよ」
それよりも、と一番怪我をしていた筈の彼女に問いかける
「お前こそ怪我してねぇか、さっき殴られてただろ」
もしひどい状態であれば、すぐに対処しなければならないと
怪我一つしていない彼女に少し驚きながらも、良かった、とすぐに笑みを浮かべて
「私も大丈夫ですわ。ありがとうございます」
ふふ、といつもの笑みを浮かべて、相手を安心させようとする

それから、もう一人の少女も確認した後に
「お前らアザナか?さっき、能力でこいつらすっころばしてただろ」
二人を含め、アザナであるかどうかを、雑談の軽いノリで聞いた

そして彼女の問い掛けには、エクリチュールは濁すように野心の方を見て、その野心は不機嫌そうに答えた
「……まぁ、私はアザナだけど、」
彼女は、助けるべき人だったから助けただけ、らしい。感謝の気持ちを受けるつもりも無さそうだ
「…ああっ!、早く警察呼んで連れてってもらいましょう」
と、駆け出して通報しようと


「成る程な。能力のお陰で助かったわ、私一人じゃ立ち回れなかったからな」
ほっこりとした笑みで伝えていたが、彼女が通報しようとする様子を止める
「ああいや、大丈夫だ。私は"正"の者だ。警察にはもう連絡してある。このまま引き渡すぞ」
と、自分も名乗っておいて

「――、」
正の者、と聞いて、野心は眉をぴくりと動かす

――そして、彼女の姿を見て、先日小熊花男が言っていた人物像と合致することに気付き、更に表情は怒り

「……正義の味方だったら早く来いよ。あたしの友達が怪我したじゃねーか、」
エクリチュールを庇うように前に出て、喧嘩腰
「わ、小童子さん…」
声は動揺しているが――喧嘩腰に慌てているわけでなく、珍しく——他者が眼中から抜け落ち、自分のためを思う野心に惚けていた
余程彼女にとって野心小童子が大きい存在なのだろう、が——


対する眠は、それを聞くと素直に頭を下げた
「すまなかった。人質を不安にさせたことも、そこのシスターさんが殴られちまったのも、紛れもなく私達の責任だ。見回りを強化して、即座に向かうように、こっちも尽力する」
深く下げると、許して欲しいとは言わないが、と寂しそうに笑った
「もし怪我をしてるなら病院に行ってくれ、費用もこっちで負担するから」

「……口ではなんとも言えるよな、」
恨むような顔と声色で吐き捨てる
「…私は大丈夫です。これくらいなら」
頬をおさえ笑みを浮かべるが、場を和らげるためではなく、野心を安心させる為だけのものにさえ見える
警察が来たのを見れば、野心は邪魔にならないように――というより、不機嫌そうにエクリチュールの手を引いて脇で手当てをした



「……、」
――歓迎されていない雰囲気であることも仕方ない、と彼女は思考した
「すまなかった」
それだけ伝えると、後は警察の誘導を迅速に行い、去っていくだろう

「………」
野心は謝罪する彼女の方を、見ずにすら居た
最後にエクリチュールは、手当てを受けながら「本当にありがとうございましたっ」と返事を伝える

そして、野心がそんな風に毛嫌う理由を知っているらしいエクリチュールは、そんな彼女に対して何も言わず、すぐにまた笑みを浮かべて手当てを受けていた

教会の修繕費用等も負担すると、後日届いた封書に記されているのを彼女は受け取るだろう


(――そういうもんだ)

"正義の味方"というものは、何故こうも非力なのか
それは、既に諦めた思考で窓を眺めた

(声でっかく"正しさ"を叫んでも、結局はこうだ、誰かを助ける前に傷ついてる。私は――)



エクリチュール、野心小童子 by jin.

テロ組織、眠吹子 by kimi.

09. 兆 了(20150819)
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