入院中であった平原星螺は、久しぶりに外食に行くことにした
怪我の養生の最中は出来る限り体に良いものを食べようと、病院食を食べていたが、給料の入って来る人間としては、やはり外で食べたいものもある
「む」
そこで、向こうに見知った人間を見つけた


「太郎」

「んえ?」

販売機のアイスをもぐもぐしながら歩いてた太郎氏、一瞬きょとんしてから彼女に、さらに松葉杖を使っていない状況にも気付き表情が明るくなる
「星螺ちゃん!!良くなったかい?!」
並み程度に歩きやすくなった足で歩み寄った彼女に対し、彼もわあー!!と嬉しそうに駆け寄る

「ああ、お陰さまでな」
ふって子供らしからぬ微笑み浮かべると
「よかったよかったよ!」
息をするように屈んで視線合わせるて彼は笑う

「アイスを食べていたのか、……腹はいっぱいか?」
と、首を傾げて問いかける

「いや、まだまだお腹減ってるけども。これからおでかけかい?」
笑みながら、彼も首を傾げて聞き返す。すると星螺がポケットティッシュを出し、何も言わずにちくわ丸の口元をぐしぐし拭った
「ほえ」
情けない声をあげるも、自分の口元にアイスがついていたから拭いてくれているのだと気が付くと、眉下げて笑いながら「ありがとう」と伝える

「……、」
情けない大人め、とでも言わんばかりの目で見ていたが、ふっと笑っていた
「そうだ。一人で食事に行く」
頷いたのちに、彼に
「太郎、一緒に食べないか。食べたいものも決まってない」
じっ

「…そっか、じゃあボクが好きなとこにでも行こうか。奢ってあげるから」
体起こすとにこりながら手差し伸べた。怪我を労る心五割、子供を扱う心五割


「子供扱いするな」
「——け、怪我人だからね、」


彼女の言葉を聞いて慌てて付け加えたが、おずおずと照れ臭そうに手を繋いでくれたので瞬きして
「何でも食べて良いからね」、とにこにこ嬉しそうに笑いながら向かった


「……、知らん。私は」
何が知らないのかは彼女自身もよく分からない言葉だった



さておき、ファミリーレストランでメニューを見ると、間髪いれず「目玉焼きハンバーグ」と言った
「お前はどうするんだ」
小さい手からメニューが渡される

「あーおいしそうだね」
にへ、と笑みを浮かべながら、メニューを片手で受け取って
「ボクもそれにしようかなぁ~、あとまぐろたたき丼とアボカドハンバーグとオムライスと……」

ででどん!いっぱい来た料理もぐもぐかつがつしてる



ちまちまナイフとフォークで食べていたが、彼の大量に食べる姿に驚き
「……太郎、金は大丈夫なのか?」
何か不安になったらしく、珍しく不安げな表情で彼に問いかけ


「ん?はいほふはよ」(だいじょぶだよ)
口いっぱいに頬張りながら鞄から財布出し、探り、…………
「…………」
ごくん、と飲み込んだら心なし青い顔で立ち上がろうとする
「………下ろしてくる……」


「……」
突然、彼のオムライスをぱくぱくと数口食べた
「むぐぐ」
目玉焼きハンバーグでお腹いっぱいらしかったが、更にオムライスを食べたことでかなりぽんぽんになったところで
「これで割り勘だ」
と、彼の下ろすのを制止する

「む、むりしないでくれよぉっ」
わたわたしてたけど、彼女の気遣いに自分が情けなくなり涙目(ちなみに反面お腹いっぱいになってる彼女が可愛いとも思っていたり)
ぽつり、本当に申し訳無さそうに横を向いて
「ごめん……割り勘にしてもらっても足りないんだ……」

食い逃げ常習犯
なんて、酷く、情けない大人なのだろう!


しかし予め多く財布に下ろしてきた、というか元から高収入である彼女は、
「……だったら奢ろう」
と、しかし彼は何となく断るのだろうなと考えたので
「私に貸しを作れ、太郎。これで、私のお願いをひとつ聞くんだ」
それでいいだろう、とじっと、少し笑って見た

「……うう、分かった…気遣い上手だなあ、君は……」
情けなくて半泣きになる太郎氏、それでもあとでちゃんとお金返すつもりではあったが。
お店出て、満足そうに笑みを浮かべて
「貸しって言ったけど、ボクはどうしたらいいんだい?」
お腹をさすりながら横の彼女に問い掛け


「……、」
問いかけられると、少し沈黙してから
「あの公園で、私と……遊んでくれ」
あの公園とは、最初に出会った公園の事である
「……い、いまは、童心に帰りたい気分なんだ」
じ、と恥ずかしさを隠す真っ赤な仏頂面である

「遊ぶ?」
きょと、としたあと、彼女の様子を見てふ、と笑んで

「貸しなんか作らなくてもいつでも遊ぶよ」
当たり前だろう、と言ってぽん撫でて、可愛いなぁと漏らしそうになりながら笑いをこぼし

「、!撫でるな!」
と言っても撫でられてもにょっているあたり子供である
「ふふ。じゃ、行こっか」
また手を繋いで、年甲斐なくるんるん振って歩く

「……太郎、うざいぞ」

そんな彼に困りながらも、大人しく手を繋ぎ、公園に着いた

足がまだ少し悪いのもあり、ブランコに乗る

「押してくれ」
と、甘えるのではなく悪魔でこきつかうスタンスなのか、ふんぞり頼んでいた





「――あはは!!太郎!!」
「そーうれ!!はははっ!!!」


やがて日がくれる頃には夢中で汗を掻きながら遊ぶ少女と、同じく笑顔で遊んでいる大人が居た


しかし少女が腕時計を見ると、もうすぐ会議の時間だった
「……、太郎、そろそろ帰る」
「…そっか、」とちくわ丸は少し寂しげな笑みを浮かべる

「星螺ちゃんの元気な姿が見れて嬉しかったよ。また会えたらいいな」
ふふ、と嬉しそうに笑んで、また彼女を撫でる。今度は、少女は文句は言わなかった
今回も見送らせてくれない事は分かっていた。それゆえに少しだけ寂しそうに笑って

「……またな、」
寂しそうに言うと、しょんぼり笑って、それから手を振って別れる
彼も同じように手を振って、見送った



「……また仕事だ」
そろそろ足も治る。職場に復帰したら、一生懸命働いて、また太郎に美味しいご飯を食べさせよう
そんな気持ちで、彼女は去っていっく

「………」
寂しげな面持ちは更に神妙な表情に、彼は

(……このまま、このままで居られたらいいなぁ………)



気持ちは、通じ合っているのか




平原星螺 by kimi.
ちくわ丸 by jin.
08. 平原星螺andちくわ丸 了(20150819)
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