「——ねぇちゃん、」

夜暗い公園に一人居る女性に声をかける男。細身だが筋肉質の身体。眉無し、坊主に近い赤髪、刈り上げ――
「こんな時間に一人じゃ危ないッスよ」
…と、険しい顔で忠告したあと、ハッとして
「いや、俺は何もしねェッスよ!!?」
あわわ、と一人で慌て始めた


「……あら」
優しげな笑みを浮かべた彼女
「まあどうこうするタマには見えねぇけどな、お前」
「…!!?」
「お前こそ、高校生がほっつき歩いてると補導されるぞ」
優しげな笑みのまま厳しい言葉、皮肉の数々

穏やかな表情で放たれたそぐわない言葉遣いに驚愕する。出会い頭に馬鹿にされたのが信じられず、
「だ、大学生ッス!!!!」
と半ば混乱したまま、とりあえず高校生と言われたことに怒る



にこおおお、と笑う
「そりゃ失礼。だけどな、お前も大学生なら深夜だろうとほっつき歩いてちゃいけねぇぞ」
アザナに狙われるからな、と
「こうして正の私たちが見回りしてやってんだからよ、お前も早く帰りな」
しっしっと手で払うように

「! アンタ正の人なのか」
ほぁ、と驚いたように見る
「……そっか。正の人は夜に見回りしてんのか」
ふむ、って感じで見る
「…毎日回ってんのか?大変じゃねェか?そんなに人いるんスか??」
どうやら心配と感心により、毒気無い表情で聞いている


「見回りは私が出るときの方が多いな、他の人員は弱い奴も居るから、出動はほぼ私だ」
柔らかな笑みではあるが、どこかきりっとした表情で言う彼女に対して、彼は何か思ったのか、一瞬可哀想なものを見るような目になる
「…そりゃあんまりッス。正は女性を労る心は持ち合わせてないんスね。社畜じゃねーか」

「ま、女である前にアザナだからな。戦力としか見られてねーんだろ、祷ちゃん様にゃあな」
眠は笑うと、続ける

「アザナが一般人を襲う、アザナがアザナを襲うなんて定番だろう。それに、何らかの輩にうちのチビがやられたんでね」
だからこそ、アザナが見回り、アザナで対抗しなければならないのだと
「チビ?誰?」という問い掛けに対してはまあそういう奴なとスルー

「お前、アザナでもない限りあぶねぇぞ」

見るからに、なんて失礼なことを言われては眉がひくつく
「………そんな!!?そんなにッスか!!?そんなに弱そうに見えるか!!?」

厳つい見た目を自分からしている彼にとってはショックだったらしい。怒るというよりは悔しそうに喚いた

「…、…まァ、じゃあ、帰るッス………」

俺何のために声かけたんだっけ、と内心消沈しながら


「お前のイガグリ頭わしわしすっぞ。まあ帰るなら帰りやがれ」
暇ならテレビ見て寝てろ、と穏やかな笑顔で
「じゃーな」
と、ひらひら手を振って見送ったとか

「わしわしすんじゃねェッス!!!!舐めてんじゃねーぞ!!!!!!」
けっ!!と最後っぺのように悪態を付くと、ふんふんと大股でさっさと帰った





「名前も聞いとけよバカ」

野心小童子に頭を殴られた。

「ってェな!!!!良いだろ!!!!多分幹部だよアレ!!!!!それが分かっただけでも充分だろ!!!!!!」
「どう考えても不十分だよ!仕方ないから特徴教えろよ」
「えーっとなぁ!!!金髪…いや、白い髪かな?美人でおしとやかそうに見えるのに口がスッゲー悪くて……あとお、おっ、…ここが…でかくて」
赤くなって自分の胸の前で少し手を浮かせて示す彼を、野心はまた殴った。
「お前が特徴言えって言ったんだろォが!!!!!!」
「貧乳で悪かったな!!!!」
「そっそんそそんなこと言ってねえだろ!!!!!!!!!」

真っ赤になって狼狽している彼だったが、ポケットから流行りのアーティストの曲が大音量で流れたので、跳び上がるようにスマホを取り出して、今までの問答を全て忘れたように嬉しそうに着信を受けた。

「"留哉先輩"!!!!!チッス!!!!!あはい、今?えと、……俺と、野心が居て、あとでテレサとちくわ丸も来るって言ってたから……4人スかね。…え!!!??チュンドラのお菓子!?!!?」
ニコニコ顔が更に嬉々として歪んだ彼と同様に、むっとした顔で見ていた野心も期待するようにまばたきの回数が増えていた。




眠吹子 by kimino.
小熊花男 by jinjin.

04. 眠吹子vs小熊花男 了(20150817)
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