公園にて、一人腰かけていた男
「……」
老けた顔つきであるが、服装や雰囲気は若い
ビジネスマン風の格好で、恐らく休憩中なのだろう
サンドイッチを食べていた

「こんにちは」
散歩してた若いシスターが一人、彼に気が付くとにこりと笑って、ゆるりと会釈した


「こんにちは、今日はいい天気だな」
シスターに話しかけられ、その行為に答えようとにこりと柔らかく微笑みを返す
「ええ。今日はとても良いお天気ですね」
にこにこ、天使のような笑みを携えて


「どこかの教会に?」
「ええ、此処から近くにある"レーム教会"のシスターでございますわ」

――レーム教会
最近、そこで救われる人が増えていると少しずつ有名になってる教会の名を告げる


隣に座っても? と、声をかける彼女に対して、彼は微笑みながらサンドイッチをもう一つ開ける

「隣、いいですよ」
「ありがとうございます」
ふふ、って微笑んで、少し距離を開けて左側に座る


「成る程、……やはりシスターという職は尊い職業ですな。見ているだけで癒される」
ふ、と笑う彼に対して、シスターはぱちぱちとまばたいたあと、

「尊い、ですか………」

一瞬かげりがある表情をしたが、にこり、笑みを向けて
「少しでもあなた方の癒やしとなるのでしたら、私も嬉しい限りですわ」



その返答を聞くと——彼は、唐突に無言で返す
シスターはそれに対して一度瞬きをしてから、しかしその後は平穏なあたたかさを味わおうと微笑んで目を閉じていた



「……迷える人が、貴女方によって更に救われたら良いですな」


昼食を全て食べ終えたらしい彼は口を開き、彼女へ微笑みかけてから時計を見て立ち上がる


目をはちりと開いたシスターは、再び声を掛けてくれた彼へにこりと笑い返し

「…そうなるよう、私も尽力し、祈っておりますわ」

頷き、優しい笑みを浮かべて屈託なく答える
「お仕事の休憩中でしたか?」

膝に手をのせて、座ったまま見上げて問いかける彼女に、そうだったんですよ、と笑いかけた

「私も仕事に迷える子羊になってしまいましたね」
はははと笑う彼にふふ、と微笑んで
「ええ。お仕事頑張って下さいまし。貴方に神のご加護があらんことを」
立ち上がり、目を伏せて祈りのポーズをし、微笑んで目を閉じる

ありがとうございました、では、と立ち去る彼を見送って——彼女は、少し憂うようにその背中を見つめた



「エクリチュール?」

ふと、背中から声をかけられて振り向く。それが知人、――それも特別な間柄であるために、険しい表情はそのままに

「…どうした?何かあったか?」
「……留哉(るうや)さん」






その後、手帳に書かれてある"レーム教会"の文字に下線を引き、スマホを取り出す

手帳には、びっしりと細かい文字で情報が書き込まれていた

「私だ、……ああ、少し気になる事があってな。論佐、調査に来てくれ」



――容姿は公表こそしていないが、彼は"正"組織の長、祷忠且(いのりただかつ)

それに感付いた訳ではないが、レーム教会のシスターは上辺の笑顔の下で、彼に対して何かを感じていた




祷忠且 by kimi.

05. 祷忠且andエクリチュール 了(20150818)
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