太陽が照る昼。

講義が終わり、コンビニで買ったあんぱんを食いながらぼんやり大学内を歩く男。右目に黒眼帯を付け、蒼暗い長髪の彼は、何かを思考しているのか眉間に僅かに皺が寄っている


そこへ、
「ちょーっと、ルーヤさん。ノート忘れてるよ」
後ろから、いかにも一年生風と言った女性がやって来て声を掛ける

ルウヤ、と呼ばれその男は振り返った。険し目の無表情が、自分に話しかける相手を確認すると、ふ、と緩む

「あぁ。わざわざ親切な人だ。ありがとう」
笑ってノートを受け取る。先ほどまでと打って変わり、酷く優しい表情で応えた


「えーと、そうだよね、ルーヤさんでいいんだよ、ね?」
明るく話す彼女に彼もつられるように笑みながらああ、と答える
対してああそうだ、と少女は思い出したように
「ね、ルーヤさんもアザナって噂ほんと?!私もアザナだからさ!ま、日常にはいらない力だけどね!」
笑いながらもう少し馴れ合おうと言わんばかりの少女の無垢な質問に、彼は少し眉をしかめた
無論、彼女の姿勢に対してではなく
「……そんな噂立ってるのか?…俺は使えないよ。人よりアザナの勉強をしてるだけだ」
どこで捻れてそうなったんだか、と院生は少し笑う。少女もそれに対してまたあはは、と楽しそうに笑った

「なんか皆そう言ってるからさ、実際そうじゃないんだろうなーとは思うけどー」
他人の噂は当てにならないからね、と楽しそうに告げる

「君はアザナなのか。どういう能力か聞いても?」

「私は紐のアザナだよ!!妹はね、また違った能力なんだけど」
「紐か。物質系統だな」

と、紐がゆるりと宙に浮かぶように現れたのを見て留哉は感心したようにおぉ、と息を吐く

「そうなの!!めっちゃ便利と言えば便利なんだけど、戦う力は何も無いのよねー」
情けない、と言わんばかりに微笑みかけ

「そうかな。使い方次第ではいくらでも使えるだろう。せっかくの能力だから自衛くらい身に付けると良い」

柔らかく笑む彼に対して、そうだけどぉ、と少女は笑って
「ま、私には必要ないからさぁ」
「必要無いなんてことはないだろう。邸螺さんは女の子だ、そんなこと言い切れない」

いたく真面目な顔で切り返すが、なおも明るく笑っている少女に少し仕方の無い、という風に脱力する

同時に、この人とは仲良くなれそうだと思い表情が綻ぶ

「君は何て言うんだ?
——改めてだが、継舟留哉(つぎふね るうや)。よく読めたな、ルヤって読み方が一般的なのに」


「ん!授業で呼ばれてたからねー、珍しい名前だし」
「はは、格好いい名前だろう?」

「かっこいーと思うよ?かっこいーと思うけど、まあ本人が近寄りがたい雰囲気のイケメン故にね~」
と、馴れ馴れしく冗談めかしてから、明るく笑って答えた

「私は平原邸螺(ひらはらていら)だよ!!」

イケメン、の言葉はよく分からなそうに首傾げてから、近寄りがたい、に少し苦笑してから、また笑いかける

「——よく言われる。だが話してみると意外と話せるとも言われる。君はどうだ?平原邸螺さん」


「ま、私にはそういう感じなのは伝わったよ!!ルーヤさんは色んな人に好かれるだろうね、きっと」
「ふふ。ありがとう」


微笑みかけてから、思い出したように

「ああそうだ、私の妹はあまり苛めないでよね?」


「……君の妹?」
虐めるな?一体どういう……彼女の呟きに対してそれを聞きかけた瞬間、


彼女は姿消えていた。
こつ然と、初めから何もそこに無かったかのように――幽霊のように。


「………平原…邸螺?」




――継舟留哉が、エクリチュールに会う前の数時間前の話である




平原邸螺 by kimi.
継舟留哉 by jin.

06. 平原邸螺and継舟留哉 了(20150819)
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