江苗と別れた後、キミドリが歩いていると、その先で少年が佇んでいるだろう
「……、」
どこか女性的で、大人しそうな彼は、彼女に歩み寄る
長い下睫毛が特徴的な瞳を瞬かせ
「もしかして、君も爆弾探し?……大変そうだよね」
他人事のようにつぶやいて、短い黒髪が風でゆらいだ

声をかけられ、キミドリは目を細める
「…まるで他人事ね。アタシもあんたみたいにほっときたいところだけど、会長の命令だからね」
本音を漏らし過ぎである
「っていうか、何もしないなら危ないから避難しなよ」
どこのクラス?と聞きながら

「……、」
くす、くす、楽しそうに微笑む
妖しい仕草だった。尚且つ、何か含みがあるようなものだった

「……避難、避難ね。随分とお人好しなんだなぁ……」

ぼそり、呟く
「何言ってんの、爆発に巻き込まれたら死んじゃうよ、当たり前――」

言って、ゆるりとあげた彼の手を見て目を見開く


"その手に「鞭」が握られている"

余りに突拍子もない行動が
余りに突拍子もない殺意が表れた

「……――殺す」

呟くと、鞭を打とうとする

「うッ!?!?」
とっさに腕を構えるも、身体戦闘力は無しに等しい彼女は、彼の攻撃を受ける
「何すんのよ!?」


「ーー僕は周布。周布恋屋(すふ れんや) 」

にこりと微笑みかけ、彼は
「爆発事件の犯人、その一味だよ。あとはタイトルマッチのバトル物。……分かりやすいだろう?」
穏やかに、悪魔で優しく微笑んだ
だが態度にあふれでているのは、「殺す」ための意思が、「彼女で遊ぶ」ための意欲
鞭は縦横無尽に動き、彼女に向かって再び上から降り下ろされる。叩き付けられるキミドリは、睨み上げ
「一味、――ってことは、複数犯なの?」
険しい表情で聞き返して
そして力無い人間らしく、抵抗もままならず鞭を受け続ける

「勘弁してよ…見逃して、何でもするから」
何でもする。酷く弱り切った表情で、惨めに素直に、彼女は降参の意思を見せる

「冗談じゃないよ、アタシは戦えないんだから……江苗、聞こえてる?!早く助けに来てよ、」


「ーーふうん、戦えないんだ、」
にこにこと、愉悦を浮かべていたが、
いつからか通話状態でいたらしい彼女のスマホから「今行く!!」とだけ怒りの込められた声が聞こえ、おっと、と両手をあげた
「おや、氷使いの会長が来るか」
途端に、先程までの殺意をがらりと変えて笑いかける
もう彼女を殺す意志は無いようで

「なら――さっさと退散しないとね」
と、彼女に歩み寄りながら

「――じゃあね、可愛いありんこさん」
「――、な、に」
すんの、と言いたげに目を見開く


"額にキスした"その男子高校生は、そのまま窓から飛び出して逃げていった
続けざまに言葉を投げたかったが、彼が消えた事に緊張感が薄らぎ、膝を着いて倒れる

「いッ、た………」


数分遅れ、彼女に駆け寄ってくるのは、電話口の少女だった

「大丈夫、キミドリちゃん!!」

鞭打たれ痛む身体に常より眉間の皺を深くしながら、彼女は息を荒げ、目を閉じている

間に合わなかった、と愕然とする彼女は、キミドリを抱き起こそうとする

「……こんな、ごめん、ごめんね……」
「気にすんな……、」
辛うじて呟き、そのままキミドリは糸が切れたように彼女に意識と体重を預けた


ぐ、と悔しさから震え、彼女を抱く力が少し強くなる
無力さを呪い、それから、ぽつりと呟いた

「……わたし、絶対に、護るから……」


赤紫キミドリ by jin.
周布恋屋 by kimi.
17. 赤紫キミドリvs周布恋屋 了(20151128)
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