「御劔さん」
体育館の中、ゆったりとした歩調で歩み寄って来る"花伝院さゆら"
「どうしたんですか?こんなところで…もしかして、爆弾探しですの?」
きょとん、聞いて歩み寄る


「――おお、そういうちみは花伝院ちゃんじゃないか」
さすらっていると、知り合いに会ったために笑みを浮かべた
先程のキミドリの襲撃を引きずっているのか、表情はどことなく暗い
「そうなの、次の爆弾どこかな~って……花伝院ちゃん知ってる?知らないか……」
たはは、と冗談めかして頭をかく

「……そうですね。体育館にもあるかもしれませんね」
と、否定も肯定もしない返事を、どこか含みの感じられる声色で呟いた

手をくい、と動かして、見えない糸で引っ掛けて彼女を転ばせようとする


嬉しそうに、ありがとう!のあり、まで言いかけたところで
「がっ」
くりん、と転ぶとずしゃーっとすべっていく
「な、なんだ!?敵襲か!?みんなふせろー!!」
一人で騒いでから、「……なんてね!」と盛大に元気そうだった
「御劔さんっておもしろいですわよね……」
転んだ様子に驚いてみせたあと、騒ぐ様子を、くすくす面白そうに見てた
そんな返事をしながら、段々もの寂しそうな表情になって静まって行く
「……わたくしも探しましょうか?」

「探してくれるのっ!?」
がばっと飛び込むとわっと驚く彼女に、助かるぅーと嬉しそうに微笑む
「じゃ、私はあっちの方探す!!花伝院ちゃんはどこ探す?」
「……ええと、じゃあ、あっちの方を」
ステージの方を指差して
「………御劔さんは、」
向かう前に声かける

「どうして爆弾を探しているんですの?」


「えー?どうしてって……」
んーと、と少し悩んでから
「だって、そんなの危ないし、――何より、学校が楽しくなくなるでしょ?」
にこり、そんな大層なことを伝えると、はてと
「そういえば、花伝院ちゃんはどうしてここにいたの?」
体育館に用事?ばすけ?と楽しそうに問い掛ける

「……」
笑顔で伝えられたそれに、薄い笑みをつくって、答えてみせる
「わたくしも探していたんです」
何を、とはいわないで、


「探してた?」
きょときょと見回っていた彼女は、花伝院の方を向き
「……何を?私も探すよ?」

――そうやって、どこまでも、人を信じる


「……"爆弾を探す人"を」


穏やかな笑みのまま答える

「?――」
彼女は、咄嗟の返答に対応出来なかった

「何で――」
早くなる鼓動に能力が呼応するのか、冷気がひやりと流れる

「――いっつ!!」
パシパシパシ、と回りから見えない糸のようなものが当たり、肌が切れた感覚に、何事かと彼女を見る
威嚇のような、少し肌や服が切れる程度の威力
「……そろそろ察しても良いのではないのでしょうか?わたくしはあまり、喋りたくないですわ」
どこか後ろめたそうに眉を下げながら、糸を操るために両手を宙に浮かせている彼女が居た。光に反射して、彼女の指から糸が続いている事が分かるかもしれない


「……花伝院ちゃん、何でそんなことするの!!」
自分に触れようとする糸を凍らせようとするが、彼女の指先へと凍る道が続くことはない
御劔江苗の能力は、半径一メートル以内でしか発動出来ない

「どっ、せい!!」
彼女に向け、走り出そうと

「…「氷」のアザナでしたね。正直、相性は悪いですわ」

凍らされたことで動きが不自由になるため、一度能力を解き、糸を消す。糸を凍らせていた氷は床にバラバラと弾けて落ちる
走って来る彼女にゆるりと後退しながら、両手を前にかざす。ある程度近付いたなら、真正面から来るのならと、指から伸びる計八本の糸が、四本ずつの爪で、二撃ずつ、ひっかくような軌道で彼女を狙う


ひゅ、と肉を引っ掻き、削る軌道に彼女は完全に飛び込んでいた
――否、自ら飛び込んだ

「いっ、てええええええええええええええ!!!!!!」
「―――!」

叫びながら、飛び込んだ軌道のままに彼女に抱き着くことを試みる
それは、たとえ残りの指で体を貫かれてもいいという覚悟の瞳だった
臆せず飛び込んで来る彼女に目を見開き、花伝院は狼狽え、勢いのままに彼女を切り刻んでしまう前に、能力を解いて、糸を全て掻き消した

花伝院はそのまま彼女に飛び込まれては、そのまま反動で後ろに倒れ込んだ
「…う、……」
身体を打った痛みに少し呻いたあと、一瞬怯えた表情を見せる。そして直ぐに慌てて、手をあげて能力を発動させる

——江苗はその手を掴み、自分の手ごと凍り付けた
「ひあッ…!!」
凍らされ、その冷たさにビクついて、能力も発動せず僅かに震えながら

そのまま糸が吐き出されたとしても、手が貫く場合でも彼女は放そうとしない
例えば更に体を糸で貫かれたとしても――

「花伝院ちゃん、――何かあった?」

綺麗事のように、問いかけて
そうやって、血を流しながら、微笑みかけた

「……み、つるぎさん」
少し、泣き出しそうになりながら見上げた。


びり、と冷たさが伝わる
彼女は氷のアザナではあるが、自身の氷に対して耐性は無い
冷たさ等の感じかたは人と同様である
「……私、花伝院ちゃんが誰かを傷つけるの、やだよ。悩んでるなら、相談して欲しいけど、」
にこり、と微笑みかけてみる
「駄目、かな……」
「……、」
花伝院は泣きそうになりながら悩んだ
彼女はもう、自分の役割から逃げ出したい気持ちだった。だが、友を裏切ることはできない
「――…御劔さん」
目を伏せたあと開いて見せた瞳は、突貫工事でつくったようにも見えるが、しっかりした物で
「…後ほどちゃんと、お話します。今は、見逃して頂けませんか」
「時間を、くださいませんか」
穏便に離してもらおうと所望する。それに対して江苗は、

「……分かった」

きらきらと、結晶が崩れるように氷が緩やかに破裂する
光を受けて落ちる全て剥がれるそれに、最早拘束の力は無い
「ただ、爆弾の解除はさせてもらうね。――爆弾は、どこ?」
問いかける
手は繋いだままに

「…ステージの裏に」
偽り無くしっかり返答する

彼女に拘束を解除された後、少し離れたところから
「…御劔さんががんばっても、どうしようもできないかもしれませんよ。こちらには、あの方も居ますから」
今も学園のどこかで"暴れている"であろう友人を思い出しながら、告げて


「……それは、どうかな」
爆弾を凍らせて処理した後、ふ、と微笑み掛ける

「私は、皆が笑って終わる結末を目指してて、
友達が傷つけられた時点で、もう止まらないって決めたから」

それから、ゆっくりと携帯を取り出すと、ウインクして微笑みかけた
「それに、こっちには探し物のプロだっているのよ?」

取り出された携帯と、告げられた言葉にまばたきをして――次は、先ほど対面したときのような笑みを浮かべていた

「……ではまた後ほど。御劔さん」
スカートを掴んで恭しくお辞儀をすると、ふわりと踵を返して去っていく


そして生徒会長もまた、彼女に背を向けて再び走り出した

「………」
みんなが笑って――…。先ほどの彼女を見て分かった。それは彼女の本心だろう
だかたこそ花伝院は、眉を下げて少しもの悲しそうに

(…それができるなら、こんなことにはなっていませんわ。……でも……)

嘘偽りの無い"正義"に―迷っていた彼女は、更に、迷って。



御劔江苗 by kimi.
花伝院さゆら by jin.
20. 御劔江苗vs花伝院さゆら 了(20151216)
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