逃げ後れた生徒も、居る
「うう、どこ、だろ、」
三階で、泣きながら教室で自分の机や鞄、果ては無関係な生徒の机や教卓まで漁る女子生徒がいた
藍澤 叶(あいざわ かなう)
いつ爆発するか分からない、おまけに、不吉な音が鳴り響いている 瓦礫が崩れるような、いや、壊されているような―― それでも、恐怖を抱えながらも必死になって、彼女は


「ぎゃはははは!お前逃げ遅れたのか!」
「ふ、え」


ゆるりと 例えるならば、猫が優雅さを孕んで歩いてきたような足取りで、彼女は現れた
「ぎゃは、ぎゃはは!ーーなあ!巻き込まれちまうぞ!」
鮮烈なピンクのショートへアは瓦礫のほこりで薄汚れている
「なあ、あたしに殺されちまうぞ!なんで逃げないんだ!」
その手には、血でべっとりと汚れたカッターナイフが握られていた
「ど、うしたの、あなた……やだ、助け、やだあっ!!」
泣きながら見上げて、血の気が引いた藍澤は怯え、思わず叫んで彼女から逃げる為に走り出した


——逃げ出した彼女の背中を確認してから、カッターナイフで、自分の手首を切りつける

ぶしゃ、と血が吹き出した 元から何度も切っているのか、乾いた血液が手にこびりついている

「死にたくなきゃ逃げろ!!ぎゃはは!!」

そのまま吹き出た血液は、数本の太い針と化して、壁や天井に突き立てられた

「ひっ、あ…やだっ、やぁっ!!」
ただ、嫌だ嫌だと怯えながら走り続ける
アザナでない非力な彼女は、相手の能力に心底恐怖を抱き泣きながら逃げる事しか出来なくて


「あらよっと!」
ざざざ!!!と砂ぼこりを払うようにコンクリートをめちゃくちゃに解体する少女

ひゅ、と

瓦礫のひとつが、彼女に当たりそうになった

「あ、ッ――」

避けられる訳が、



「――ッふわぁっ?!!」

そんな彼女を庇うように飛び込み、覆い被さるように庇った人物がいた

芝南 稔(しばな みのる)

「しばなく、」
「あくしろ、死ぬぞ」

早く逃げろ、とネットスラングで言いながら無表情で、血を操るアザナのをしっかり見据える彼
そんな彼を見て藍澤は救世主をみつけたようにすがり付いた

「芝南くんっ、おねがい、
私の"原稿"、探して…っ!!」

芝南稔は、探し物をさせれば右に出る者は居ないと有名な生徒だから
そして藍澤叶は、プロの漫画家を目指し活動している漫画研究部員だから

「――わぁったから、行け」
芝南は漫画家志望の懇願に許諾する意を見せ軽く頷いて見せた

「、うんっ」

やって来た「血」のアザナから最後まで庇うようにして、彼女を行かせる


「ーーお?」

瓦礫から護られた彼女を見る
そうして、彼の存在も認識する

「おお!怪我しなくてよかったなぁ!」

にかり、何故だかそんなことを言って、うれしそうにわらって


「あたしは勝手に暴れさせてもらうぞ!ーーその原稿ごと、びりびりのめきめきにしてやるよ!」


そして、再び刃を振るい始める
次に、瓦礫は彼へと降り注いでーー

彼は突然何もない左手を構え、

――否、その腕が大砲になり、開かれた蓋からエネルギー弾が発射され、ダンッ!!!という破壊音と共に、瓦礫を砕いた


「おお!お前も壊す能力なんだな!似た者同士だ!」
にこり、びゅんびゅんと血液を振り回しながら、彼女は

「……お前、何でこんなことすんの」

「だって、言われたんだ!学校はもう要らないって、壊しても大丈夫だって!

だからあたしはーー殺すんじゃなくて、壊してるだけだ!文句を言われる筋合いは無いね!!ぎゃはは!」

ひゅう、と 風を切るような速度で、彼に向かって走っていこうと そうして、ーー叫びながら
「お前こそ、逃げないのか?なんであたしに立ち向かうんだ?ぎゃはっ!!」

「握手するか?……右手でいいならな」
といいつつ、左手――大砲を向け 向かってくる彼女をギリギリまで引きつけるかのように屈託無く構え

「俺は雇われてんだよ、大福100万円分でな」
「だから仕事の邪魔するなら、殺すつもりで撃つぜ」

ひたすらに無表情で


「ぎゃ――は?」
勢いよく飛び込んだ彼女は、その眼前見えたほのぐらい闇に目を見開いた。 距離にしてあと数mと言った所か、

「――ぎゃはは!!じゃあ、その大福はあたしのもんだ!!」

ひゅ、と――腕を軽く振り回すと、跳躍からの滑空状態のまま、攻撃を繰り出す。 血液のスクリュー。ドリルの形状にも似た、まさしく一本の槍のような攻撃が彼に向かって振り落とされる。

「――、」

向かって来る彼女を見据え、大砲を構えながらも――瞬時にそれを解除し、大砲を消しただの腕に戻して、躱した。
そして、彼女とすれ違う形で駆け出した。


つまり。

逃げた。


「殺す気かよ、っざっけんな…!」

無表情が僅かに眉間に皺を寄せ、冷や汗を流しながら後ろ目に彼女を見る
始めから、彼女に能力を使うつもりは無かったらしい
脅し文句も、当然嘘


かわされた末――粉塵と共に紛れ、消えた彼の姿。

「ありゃ?」

ぱちくりと瞬きすると、そのまま降り立つ。 その瞬間、彼の影たるものが、己と少し距離を離しながら通り抜けていくのが見えた。
「……、何を逃げているんだァアッ!?」
にたぁあと笑うと、即座に追い掛ける。 ついでに――と言わんばかりに、彼の天井やら横の壁やら、血液の槍で破壊していく。
「あははっ!!はははははあはぁっ!!」

「チッ、爆弾も探さねえといけないのによ…!!何で俺の相手はキチガイなんだよ…!!!」

背後の壁や天井が壊されて行くのを後ろ目に、まだ調べて居ない教室に駆け込んで、走り際に掃除用具入れを開け放したり教卓の中を覗いたり――持ち前の観察眼を生かして走り抜けながら、爆弾と——原稿を探す

そうして最後の部屋に駆け込み、
教卓の近くの棚の上に置いてあった

(――原稿!!)
ばん、と手を叩きつけの上に置かれた原稿数十枚を回収し、

―――そのまま別の入り口から逃げようとした際、そこに最後の爆弾が取り付けられている事に気が付いた

迂闊に動かせない=開けられない



ドーパミンに犯されているかの如く興奮した様子でいたが、彼を目で追いつつ、一度冷静な態度を取る

「ぎゃは――?」

きょとん、と哄笑中に瞳を見開いて首を傾げる
彼が部屋に入っていく。しかし、出てくる気配が無い
ここは部室。恐らく先程の生徒の失せ物を探しているのであろうが、それにしても遅くはないだろうか
今は一刻の猶予すら無いというのに

「ぎゃはっ!!――よくわかんないけど、早く出てこないと、教室ごと壊れてしまうぞ!!」

そうして、派手に壊しかけながら向かって来る彼女に——主に最後の爆弾の在処――此の場所――を携帯で御劔達に教え終えていた彼は、「おい!!」と声を上げた

下手に強行突破しようとすると避けがたい反撃は免れないと思っての行動、両手を上げて彼女を見ていた

「それ以上暴れんな!ここに爆弾があんだよ、迂闊なことしたらお前も巻き込まれて死んじまうぞ!」

彼は普通の人間だ。勿論彼女にだってけがはさせたくない
冷や汗を流しながら至極真面目な顔で指差して爆破時間が示されてある爆弾を示し、


「……、」

彼女は瞳を見開くと、爆弾があることを知り――

「分かったら一旦落ち着け、逃げんぞ」

と、休戦を図った彼に対して——彼女は、つまらなそうに唇を尖らせた



「たしかに、爆弾なんかに学校を壊されちゃたまらないな
あたしが壊すからな――」

そうして、彼に着いていく事にした
興が冷めたかのように、手首から放っていた血液すら収めようとする


「………おぉ、」
(良かった、話が通じる奴じゃねえか)

存外呆気なく場が収まった事に密かに脱力しながら、血を納めたのを見届け安堵からゆっくりため息を付く



「飽きた飽きた。爆弾なんか仕掛けてもつまらないじゃあないか
――御傷(みきず)なんかに乗っても意味なかったな」


ぽつりと呟くと、なにか、名前を

「――御傷?」

引き返そうとする彼女に続いて自分もゆるりと教室から出ようと彼女の方に歩んでいたが――彼女の言葉を拾うと、肩を掴んで引き止める

「お前、御傷って言ったか?」


「ああ?……そうだな、……まあどうせ見つからないだろうから、良いか」

くつくつと微笑むと、

「あたしは好きに暴れてもよいと言われたんでな、雇われたんだ
縫手 御傷(ぬうて みきず)。だがな、あれは捕まらない」

捕まらないのさ、と
ただ、ただ、笑って

縫手 御傷。

「……俺は何だって見付ける。俺が探して見つからない物はない」
それだけ腕に自信があるのだろう、無表情で、しかし屈託なく答える

大事そうに原稿を抱え直せば、少しだけ笑って

「お前はこの後どうするんだ」
敵の今後をさらりと問う

「……家に帰る。今日はもう授業は中止だろう?」

彼女は元気よく、猫のように笑うと、

「お前も首を突っ込みすぎると、いつか痛い目を見るぞ
あれは、そう簡単に止まらないだろうからな」

せいぜい怪我には気を付けろよ、と
微笑みかけると、そのまま窓から飛び降りた

「――おま、」

飛び降りた彼女に驚愕して慌てて窓から顔を出す
彼女が無事に去っていく様子を見れたなら、また深い溜め息を付いて

そこから離れていると、藍澤と再会したので原稿を渡し、涙を流してすがりついて来る彼女に困惑から眉間に皺を作ってから

「なぁ、縫手御傷ってどういうやつだ」
「縫手くん?私と同じクラスの、白い髪の……」
「さすかな」
流石叶の略だよ、と補足を加えながら、ふ、と満足げに笑み



『首謀者はヌウテミキズ(仮)

俺はヌウテを探す

絶対見つけられないそうだからな』

LINEにそう流して、御劔達の反応や指示を待たずに再び探索を始めた
消極的な彼が自分から仕事を追加したのは、

――意地になったから。




芝南稔、藍澤 叶 by jin.

水瓶乙女 by kimi.
21. 芝南稔vs水瓶乙女 了(20151216)
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