ぴた、ぴた

雫が垂れる音で目が覚めると、少し大きな体育館の倉庫に居ることに気づくだろう
用具も余り入っていない、普段ひとが寄り付かない場所
暗闇の中に、懐中電灯を立てて灯りをつけているような状態だ

「痛いところは?」

彼女が起きたのを確認するなり、淡々と問いかける
白髪の少年――縫手御傷

「いきなりごめんね」

ぼそりと呟く
奥の壁には、鞭の能力を持つ周布恋屋が寄りかかっていた


「………アンタは」

赤紫キミドリは拘束され、身動きが取れない。縛られている状態だと分かると、視界が開けたばかりの眼を上に向け、掠れた声で聞く
「何?………アンタ達が今回の事件の犯人な訳?」

眉間の皺を深くしながら、



「そう。僕たちが犯人だ」

あっさりと、告げた

「僕たちは四人で行動していた
でも段々と欠けて……そうだね。水瓶は帰る頃合いかな」

ぼそり、ぼそりと

「君は人質だ。僕が見せしめに生徒会長を殺すための、人質」

「生徒会長、――江苗を殺、す――?!」
目を見開いて驚愕する
「何でよ、……!!」
拘束から逃れようともがきながら、相手を止めようと荒げる


「……何って、目的の為だよ」

ぼう、とした瞳で

「僕はこの学校に、地獄を見せてやるんだよ
かつて僕が味わったように」

それから、ゆっくりと闇に溶けていく

「地獄………、何、しようとしてるの、止めなよ」
歯を食いしばりながら、去る彼に何も出来ず、唇を噛み潰したくなる


ドアに向かって歩いていく彼と
交代のような形で、周布が彼女のもとに腰かけた。

「……やあ、ありんこのお嬢さん」
一度対峙したことのある鞭使い。睨み上げるように問い掛ける
「………アンタは、何でアイツに協力したの」
流行る気持ちをおさえながらも、平静さを取り戻そうと試み、来るかもしれないチャンスを伺って周囲を僅かに観察してから、彼を見上げて

「――あたしを殺すの」


「……なぁ、そうだよなあ……何で協力したと思う?」

くすり、と微笑みかけ

「ヒントは、僕が正しいと思った事をするためさ」

そうして、彼は、
片手にハサミを持つと、ゆっくりと――

「正しいこと……?」
見上げ、彼がハサミを持ったことにぎょっとする
「ッ――!!」
痛みを覚悟し息を飲み込んだ


ジャキリ。


――キミドリは目を見開いた

「………何で」


彼の持つハサミが、自分を拘束する縄を切っていた


呆気に取られるように、息を吐くような弱々しさで問いかける


「ははっ、」

にこり、笑いかけて

「それが分からないようじゃ、君はありんこのまんまだぜ?」

「………、分かんないわ」
眉間の皺を深めながら、
アンタがアタシのことを蟻って言う理由もね、
と心中で追記しながらキミドリはゆっくりと起き上がる

その時、バンバンと倉庫の扉が叩かれた
「――縫手御傷!!居るんだろ?!」
此処を見つけた芝南稔、そしてその隣には彼と合流して行動していた無芸梨理恵


「……おっと、」

くつくつと微笑みながら、彼がのろのろと倉庫を開ける
見えた彼らに対して、楽しそうに微笑んだ

「御傷は別の場所だよ。だけど流石
よく見つけたもんだ」

「………、嬉しくねぇ」

そこに居た芝南は、見つけるはずだった御傷――ではない彼に言われ、眉間に皺を寄せ呟く
そして、血使いの水瓶乙女に言われたヒントを思い出した

――絶対に捕まらない……


招き入れるように、ドアを開ける

「来なよ。ありんこのお嬢さんも一緒だから」

そうして招き入れてから、彼らに腰かけるように促すだろう

「……どれから聞きたい?何でも答えるけど」

はっきりと、縫手を裏切った姿勢を見せていた


「――!!行かなきゃ、あたし!!江苗が危ない!!!」

我に返って御傷を探しにキミドリは立ち上がり、携帯も持とうとせずに、芝南達の横を通って焦燥しながら走って去って行く
そのただ事でない様子に芝南は無表情を僅かに引きつらせる

「?!――御劔に何かしたのか、お前ら」

キミドリを止めることも追うことも出来ずに芝南は、周布に問う



「ああ、」

さらり、と

「御傷が生徒会長を殺すってさ」

なんでもないことのように、だけどさりげなく
そう、告げた

「見せしめだよ。――生徒会長は、多分うかうかしてるとほんとに殺される
あいつの私怨が暴走した先の行く末」

そう煽ると、一番先に飛び出そうとしたのは無芸だった

「焦りすぎじゃない?あの子」

「黙りなさい!皆さん!早く行きますよ!」

怒りの形相でやりとりを行い、飛び出した彼女
それを、呆れたように見つめる

「まあ待ちなよ、てか、多分御傷には勝てないよ?君たち」

無芸を無視し、しかし彼女のことも止めず、
キミドリも無芸も行ってしまった以上、自分が冷静に全てを解する必要がある、と芝南は思って立ち止まっていた

「……血のアザナ女に「御傷は絶対に捕まらない」って言われた。何でなんだ。それと関係あんのか」
立ったまま周布と会話する芝南
「能力か。御傷の」


「そうだねぇ」

くすり、と笑いかけた

「あれは捕まらない。隠れるんだ

――ひとと、すこし別の次元に行ってしまうのさ」
「別の次元………」
繰り返し呟く。能力なら、俺でも見つけられないと言われた事に合点が行く
――認めねえし、諦めるつもりはねえけど、

と一人で思考した後、また彼を見て
「お前はなんで、教えてくれるんだ」

「……なんだ、君もありんこなの?
あーでもどっちかって言うと、君はコオロギって感じだなぁ」

くす、くすくすくす

「僕は僕のやりたい方にやる
それに味方も敵も関係ないだろう?

君んとこに、丁度ありんこちゃんがいたから、君にも教えたげただけだよ」

にこり、微笑みかける

「………訳わかんね」
やや真剣な表情をしていたコオロギはぽへんと無表情に戻る

「蟻って誰だよ、……まぁ、……感謝しとく」
どさり、と腰を下ろした
「せっかくだから教えろよ、知ってること全部。その礼はお前が好きな?蟻?でいいか?」
察して言っているのだろうか、彼は


「そうだね。あれは面白いから
叩いても響かないふりをして、何度も叩けば壊れてしまいそうでね」

それを気に入っているのか――彼はいたく楽しそうに笑った



「江苗!!!御傷!!!江苗!!!!」

はぁ、はあと息を切らし走って探すキミドリ

その道中で、花伝院さゆらと出会い、――――


キミドリはたどり着く



そうして、彼女が辿り着いた先には

血溜まりの中で、俯せに倒れる生徒会長の少女と、
それを見下ろす、灰色の少年が居た




22. 縫手御傷 了(20151228)
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