「ふうむ、」

額で見せた髪型の黒髪、眼鏡、マフラー
コートを着こんだ青年は、くるりと銃を振り回しながら呟いた

「どこまで介入すべきでしょう。こういうのは彼女も関わろうとはしませんが……」

ぶつぶつ呟いており、明らかに武器を携帯しているため、怪しさはある
だが、彼の足元には倒れている人もおらず――



――駆け、助走の勢いを加え跳躍し彼を蹴り付ける野心小童子

「―――お前、GOD?」

”糞犬撲滅”と書かれたハチマキをした彼女が、濁った眼で睨み付けながら



「ぶへっ」

普通に蹴りを入れられ、ずしゃーっと転んでいく
しばらく転がったのち、よろよろと立ち上がった

「い、いかにも。僕はGODですが……いきなり蹴りつけるとは無礼ですねぇ、貴方も」

なんとものんべんだらりとした青年である

「……あ、なるほど、反勢力ですか。アザナさんですかね。では貴方に特別アイテムを差し上げ――」

いきなり意味不明に対応する



「死ね」

聞く耳持たない。GODと聞くと容赦なく再び向かって来る




「う、うわぁ」

一度身を引くと、ポケットに手を突っ込み、結晶を放る
その結晶がぱきりと変化すると、球体の檻のような形状になり、彼女を包んだ


「―――!!?」
この物体は何だ――目を見開くと、檻の棒にガツンと蹴りをくわえ


「待ちなさい待ちなさい。僕は貴方の味方です」

ぷん、と青年は指をたてる
その目元は涼やかであり、気品ある顔立ちだった

「シェパードの情報を差し上げます。彼女の最終的な目的まで教えますよ」

――どういうことか


「……何?そうやって油断させようって手段?」

檻に足かけた状態で、睨み付けながら問いかけ
――る、彼女の下にやってくる護衛

「小童子さん小童子さん小童子さん!!!今お助けします!!!!小童子さん小童子小童子さん!!!!」

――斧を持ち、スカートを破り、"駄犬処分"とベールにかかれたエクリチュールが 彼女の檻を取り壊しにかかる
「小童子さん!!!大丈夫か?!!」
直ぐ後ろから筋肉質で短髪のライダースーツの男も駆けつけてきた
わらわら



「な、なんと大勢……」

普通に汗を垂らして焦っていたが、檻はそれとなく頑張れば破壊出来るレベルなので、とりあえず放っておいて

「……僕は何といいますか……シェパード勢に適当に入ったスパイのようなものです。勿論ここでお相手してもいいのですが、僕は肉体労働は嫌いなんですよ」

ふう、と溜息。それから笑う

「お互い血を流さない方が良いでしょう?」



エクリチュールがガンガンと斧で檻を壊している中、野心は眉をひそめながらも話を聞く
護るように野心の前に出た護衛の男に対して、「嶽屡、いい。下がってて」と
その内檻から出て来た野心は、骨我意 嶽屡(こつがい たける)に手を出した
「旗ちょうだい」

下がりながらもああ、と一つ返事を返し――、彼はポケットの中に手を突っ込んだ
そして鉄製の棒、彼女の身長を少し越えるほどの長さの旗を、"そのポケット"から出した
いわゆる、四次元ポケットのように

野心は自分の服にある紋章と同じものが描かれている旗をぶん、と相手の方に向けた

「不審な素振り見せたら殴る」
一向に警戒心は解かないが、話は聞かせてもらうつもりらしい




ふう、助かりました、とほのぼの微笑んでいる
さしもの青年であっても、その旗を出す様子には驚いていたが、ひとまず話を始めることに

「僕はですね、……えーと、そう。シェパードの大量殺戮に反対する勢力でして。GOD風に名乗るのでしたら、適当に……スパニエルで良いですかね」

なんというか、つじつまあわせのような嘘めいた雰囲気に感じるが

「居場所としては、シェパードは町の中央、スカイビルの屋上にいます」

と、言った
あっさりと

スカイビルは、町の観光名所――高所から町を見渡せる事が人気のスポットだ

「ちなみにこの会話もシェパードに聞かれてはいません。そうですね、……シェパードの最終目的は、追い詰められた瞬間、己を自爆することで、ビルを落とすことにあるんです――」

それによる被害、というわけか
ぺらぺらしゃべるこの男、はたして信用してよいものか


「………自爆」
「何でお前そんなこと知ってんの。まさかシェパードとかいう奴がお前ら部下に「自分は自爆する」って言ったわけ?」

「――何で、あたし達に手を貸すの」

旗を向けたまま、不可解そうに、しかし真剣味を増した顔で



「……えーと、そういう事となると……ど、どうしましょう」

悩んでいる様子だったが、はぁ、と頭を掻いて伝えた

「僕は、アザナが殺されるのは困るんです。僕は……なんというか、人が死ぬのは嫌いなので、シェパードの計画を盗み見た訳です」

さらり、と。申し訳なさそうに

「……いや、ほんとはですね、とても信じてもらえないような事を言ってしまうんですよ。それで貴方の信用を失うのは辛い

だからそういうことにしておいてくれませんか?……と」



少し沈黙し、思考の後に一つだけ問い掛ける
「…………あたし達だって、人を殺してでも人を救おうとしてる集団――「道」だよ。それでも良いの?」

正ではない、警察でもない、犯罪者溜まりの道であると自ら告げれば、この不可解な男はなんと返すだろうと
良くなくてももう遅いんだけど、と思いながら



「僕は『見て』いましたからね……貴方には貴方の正義というものがありますから」

ふ、と微笑み掛けた

「僕は生半可な気持ちで貴方にこの情報を与えた訳じゃありません。上の方にもお伝えください。――」

それでは、と彼は去ろうとする
路地裏に入るように、闇に溶けるように



聞きたいことは山ほどあったが―― 一刻を争うとき
去りゆく彼に、野心は旗を下ろした
追う意思を見せないことを察し、護衛二人も追尾しようとしない

「………とりあえず留哉に伝える」
小さく息を吐いて、スマートフォンを取り出す
不可解ではあったが、どこか、嘘は言っていないような気がした……
(――あくまでも気がした、だけだけど)




スパニエル by kimi.
野心小童子、エクリチュール、骨我意嶽屡 by jin.

36. 野心小童子vsスパニエル(20160130)
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