――その日、各地で闘いの火蓋が切られた
同時多発テロとも言うべきか。休日、人が最も行き交うこの日に、『彼等』は民間人攻撃を開始した
町の各方面にて、悲鳴が、煙が、痛みが始まった

以前から――反アザナ運動というものは存在していた
力を持つもの、持たざるもの――牙を持った動物が目の前に居たとして、牙を持っていない動物がそれらに対し畏怖するのは、極めて当然である
反アザナ運動を行う者は――大抵、そういう層の人間だった
アザナは危険な存在だと
彼等は声高に叫んだ

ただ、アザナも人間であり、理性を失った獣ではない
力を持つものとして――例えその能力に凶暴性を秘めていたとしても、それらを上手く活用し、社会に貢献している者は少なくないのだ
逆に言えば――例として、連続殺人鬼『美弦萌百合』のような、危険因子も生まれるのだが
反アザナ運動を起こす人間は、主にそういった暗い部分のみに焦点を当て弁論を披露していた


運動グループは数多くあるが、中でも過激派なのは、『新約説』と称されるグループであった


そのグループは、最も宗教的であり、最も攻撃性の高い軍団だった
彼等の立ち上げたサイトには、その全てが語られている

『アザナは人間ではない』
『神の代行者イエス・キリストは神の子供であり、人の子である』
『終末から新時代を築き上げたイエスが、罪の穢れにより粛清出来なかった――溢れ落ちた悪魔の子らである』

『全てのアザナを抹殺する事こそが、イエスの代行者たる我等の使命である』


『新約説』は、事実攻撃的であった
アザナが住んでいる近所の家には放火を行い、アザナへの傷害事件、アザナの子供を誘拐する事件まで起こした
最近では、『教会襲撃事件』が有名である
このグループは何故か法に厳しい日本に置いて武装しており――噂によると、海外の軍事組織と連携を取っているとも言われている
それこそ、彼等が法に触れているような連中であり――警察が幾度も摘発し、何人ものメンバーが逮捕された
それでも復活し、現在までなお迷惑行為を働いている
このレベルとなると、他の運動グループからも嫌われており、『狂っている』と溜め息を吐くような問題児だった

彼等がある日、サイトの末行を更新していた
一時期頭のおかしなサイトだと話題になったことで、反アザナ思想でなくとも、そのサイトを確認した人間は多く居た
過去に面白半分で覗きに行った者達が、久しぶりの更新と聞き、またからかってやろうとページを開いたのだ

閲覧した彼等は、目を見開いた


『先日、アザナの某グループによる犯罪宣言が行われました』
『私達はそれを見て、大変心を痛めました』
『このような事態が起こるのも、等しくアザナという悪魔が生まれ堕ちたからです』
『私達は話し合った結果、正義の為立ち上がる事にしました』


『クリスマスイブにて アザナを全員抹殺致します』






念のため、警察のサイバー犯罪科に通報する者はいた
しかし、ここまで言うのであれば、どうせホラだろうと信じぬ者も居た
警察が介入し、『新約説』はウェブ管理者からの権限で、サイトを消去される



『新約説』は約束通り、アザナを全員殺すために町に出た

このグループが攻撃手段を行う際に、いつも控えているのは選りすぐりの戦闘部隊である
戦闘経験のある一般部隊、中でも強い人間が揃っているのは――


「それが私達、『GOD』です」


戦闘部隊長、及び『新約説』グループ総帥、――『シェパード』と呼ばれる女性は、煙が上がる町を見て、どこかから笑っていた






「――」

十歳ほどの少女は、呆然と町を見つめていた

軍帽にも似た黒い帽子のつばで、目元を隠し
黒いエナメルジャケットに、黒のショートパンツ――左手のみ皮手袋をはめている
足元も黒――男物のような軍用ブーツを、相応の細く小さな足に合わせた品

彼女は、――平原星螺は、その人形のような顔に、怒りの形相を張り付けていた
携帯を取り出すと、部下に連絡する

「……まずは全ての民間人を誘導してくれ、確実に保護せよ
敵は私が片付ける。お前達は――」


「俺達、だろうがッッッッッッ!!!!!」


耳に響くような声にびくっと驚き、そちらを向くと――彼女の仲間が立っていた

「平原!!!!!!!!!!お前の悪い癖だ!!!!!!!!!!
もっと俺に頼れって言ってるだろうが!!!!!!!!!!」

蛍火ほたる――白いライダージャケットを羽織った彼が、わしゃ、と彼女の頭を撫でる
彼女は申し訳なさそうに、だが恥ずかしそうに呟いた

「……すまん、……ありがとう
……だがな、蛍火。お前は目立つ。能力も声も」


「全く持って――その通りだね
蛍火君は少しシー、だ」


蛍火の隣には、祷忠且が立っていた
彼はスマートフォンを取り出すと、続けざまに二人に伝える

「論佐には伝えているよ。バックから援護してくれるらしい
のちほど片が付いたら駆けつけてくれる」

「眠はどうしましたか?」

「眠君も前線だね」

となれば、現状この場は私達三人になる訳か――と、平原は嘆息吐いた

「平原君、頼めるかい?」

「勿論です。……祷さんもご無理なさらず」

「大丈夫だッ!!!!!!!!!!平原が義手になっても、俺が横で支えてやるッ!!!!!!!!!!」

「ありがたい、が、言った側から騒ぐな……」

真っ赤になって縮こまる彼女に対して、祷は柔和に微笑む
そうして――空を見上げ、ぼそりと呟いた


「……これがお前達の、やりたかった事なのか……?」


シェパード、平原星螺、蛍火ほたる、祷忠且 by kimi.

26. 犬(20160108)
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