カフェの中、コーヒーを飲み干す女性。

レンズが薄茶がかった眼鏡をした、臀部まで届く後ろ髪、胸下まで届く前髪をした黒い長髪の女子高生。長めのスカートの横はぱっくり切られてスリットのようになっている
カツン、と立ち上がり、レジ――ではなく、ある客席の方へ歩む

左目は髪で隠れて居るが、相手を侮蔑するような鋭い切れ目の右目が、そこに座っている一人の人間――明らかな"アザナ"を見下ろした
「――アザナは人間じゃないけど。お前は見るからに人間じゃないわね」



その先に居た人物は――

「何や、藪からぼうに」

その頭部は――和菓子で良く見かける、手鞠柄の飴であった
本当に、いやまさしく、人間か怪しいような存在だった

「どっからどー見ても人間でっしゃろ、何や……あんさん、肌の色や目の色で人間差別するのとどっこいやで
はよう帰って、好きな芸能人の動画でも漁っとき」

しっし、と手を払って

「それになぁお嬢さん。町は騒ぎや。はよう帰り」

事実、交差点から見える巨大テレビジョンには、緊急速報が絶え間なく流れている
さっさと帰り支度をする客もいるようだ――彼もケーキをつつきながら


「――アザナは人間じゃないって。よく言われてる事よ。"普通の人間"の皆さんから」
彼の言葉を全て無視するようにそう言うと、フ、と嘲るような笑みを浮かべて繰り返す
そして、相手を見下ろしたまま淡々と告げる
「今から此処も騒ぎになるわ」
スリットからスカートに手を入れて、取り出した包丁を相手の首に突き付ける
「如何してか分かる?」


ほおん、せやろか、と気の抜けた返事をしていたが、彼女が武器を取り出したところを見て首を傾げた

「嬢ちゃんもかいな……、難儀なやっちゃで……」

はぁ、と肩を落としたが、己の両手を捏ねるように合わせると――もももももっと
軟体生物のような、白いスライムにも似た何かが――甘い香りを持った何かが、手から溢れるように現れた


「包丁って何や、あんさん、今時ストーカーでもええもん持っとるで」


それは、彼女へと覆うように襲いかかる
――飴、だった


「包丁」
彼の言葉に応えるように呟く
「普通の人間にとっての、身近な武器よ。この感覚は、アザナには分からないかもしれないわね」
彼の能力が発動したと気付くと、攻撃は最大の防御と、突きつけていた包丁をそのまま首に突き刺した


その瞬間――頭部の飴が溶けると、彼女の包丁をクッションのように包み込み、固めようとする

「あかんあかん、頸動脈狙われたら死ぬて――」

彼が後退すると、頭部の飴がそっくりそのまま剥がれ、生首の状態になる
操作を中止すると自動的に溶解するらしく、包丁の先がどろりと現れるだろう
飴は飛来し、彼の頭部へ戻っていこうとする

「さて……どないすっかな……」

ある程度捏ねた飴を、鞭のように伸ばして彼女に向け振るってみる

「――、」
彼女が相手を殺そうとする行為は、迷い無い動きだった。飴に覆われた包丁を、ビッ、と汚らわしい物を払うように振ってから、今度は駆け出した

「どうするも何も。――お前は此処で死ぬの」

包丁を構えたまま、全力で走り鞭を避けながら彼の胸目掛けて突っ込む


「あー、んー、どないしよっかな」

回避された事に再び首を傾げると――

「だってなぁ、お嬢ちゃん、ムショとか好かんやろ」

振るっていた飴の先が、追尾ミサイルのように軌道を変える
彼女の隣をすり抜けると、グルグルとあっという間に彼女に巻き付いてしまった
そのまま硬化したため、腕ごと拘束した

「……論佐サン多分来ないなぁ……力仕事嫌いや……トホホ……」


捕まり、ごろん、と蓑虫状態になり飴を持つ彼に引きずられていく
ぐ、と呻き、身動きが取れずに居た彼女は――、髪の間から見えた左目がギロ、と動いて

突然、彼女を巻き付けている飴が
"発火"した

当然、床にも燃え移る

「―――」
『火』の能力を宿した左目の義眼が、脱出を図るために火傷も畏れずに自らを拘束する飴を燃やし、溶かそうとする



ふおお!?と回る火の手に驚く

「お、おおおおおっ!!」

あちあちと急いで能力を解除し、飴が空気に溶けるように消滅する
後退してズボンをパンパン叩いたり

「あ、あぶねぇあぶね……」

あ、と彼女を見る
そこには、拘束を解いた姿が


「―――、」


飴が消えても、彼女が点けた火は消えない
彼女の体が燃え広がって行く。炎の中駆けて逃げ行く一瞬、彼女の切れ目の黒い右目と、傷の有る左目の義眼が彼を睨み付けていた



その様子に、あー、と頭部を掻く

「……、はぁ」

あんな火傷をして、再びアザナを殺しにかかる事なんてないだろうと――
ひとまず、追い掛ける事は止める
ただ、助けようともしない――彼はただ、見送るのみだった

「……さて、どうなる事やら……」

ぼそりと呟くと、携帯を取り出し、上司に連絡を入れることにした



剥製メノウ by kimi.
27. 剥製メノウvsフォックスハウンド 了(20160114)
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