「無茶な仕事押し付けるよなあ」
白くてでかいフード付きパーカーを腕に通さず羽織った、がっしりめの身体つきのその男は、ぼんやり街を見渡す
ここ周辺は彼の管轄、彼の任務地。避難していない人間は未だ、ちらほら残っている

「"アザナ"を全員抹殺する。その為に"一般人に扮しているアザナも居る可能性も考慮し、目に付いた一般人も殺せ"だなんてなあ」

"ファンドランド"と命名されたGODの一員である彼は、
「ま…仕事だからやるけど、な」

パーカーのポケットから取り出した銃――、ただのBB弾ピストルを、ふとだるそうな挙動で、五メートルは離れている一般人の背中――頭に、向け
そのオモチャの引き金を、引こうとする
殺気も不穏な空気も、何も無いまま。





「——ー攻撃待ったあああああああああああああああああッ!!!!!!!」


ふ、と。突然屋根でも出来たかのように、彼の視界が陰る
見上げた先にあったものは――ファンタジーに影響されたようなデザインの氷の刃
それを持つ少女は、長い黒髪を靡かせ、今流行の「ほげにゃん」Tシャツ、パーカーに身を包んでいる

彼女は、高い跳躍から彼に飛び込むと同時に、その氷を降り下ろした


「、」
陰に気付けばぼんやりした瞳で見上げ、飛び込んで来る氷使いの攻撃を、軽いバックステップで躱す
氷が地面とぶつかり、破片が散らばった

「………"アザナ"じゃん」

彼女の存在を認めれば一人言を零し、ふ、と少し、上機嫌そうな笑みを小さく零す



舌打ちした後直ぐに霧散させると、新たに氷の剣――もう片手に手持ち盾を作った

「言うに事欠いてそれかッ!」

びし、と剣を差した少女は――

「あんたがテロ組織だな!!
えびょーちゃんはカラオケが騒ぎで閉まって怒ってるんだから!!

『銃は剣よりも強い』イコール!!『覚悟しなさい』!!」

それこそ年端もいかぬ、女子高生だった
言ってる台詞が負ける事確定であるが――
ほげにゃんデザインのリュックサックにぶら下がった学生証には――「御劔江苗」と記されていた

「………、」
役者のように動き、語り出す相手を見つめたままファンドランドは、くつくつ、可笑しそうに肩を震わせながら笑い始める

「お前、可愛いなあ」
深く考えず、一人言にしてはでかい声量でそう言う



彼の言葉を受けてぽぽんと赤くなる

「そ!そんな……めちゃモテ愛され系大和撫子なんて言い過ぎだって!」

何だか頭の悪そうな言葉を続けて「もう!」と嬉しそうにもじもじ。中々自己肯定感の激しい少女のようだ


「ははは。かわいいなあ、やっぱ」

愉快な彼女を見て可笑しそうに笑いながら

「そう、ボクがテロ組織デス。大正解、よおく出来ました、すごいなあ。じゃあ、もう一つ問題出してやろうなあ」
持っていた銃の銃口に指を入れ、くるくると回したあと、軽く上に投げるように手放して、人差し指と親指で摘むようにして持ち直す、彼女にピストルを見せつけるように
「これは何でしょーうか。もぉ一つ聞くとしたら、オレはこれで何をしようとしていたでしょうか」
にやにや、完全に舐め腐ったトーンで楽しげに問い掛ける


「……BB弾で何する気か分かんないけど、あんたが人殺ししようとしてるのは分かる!
てか、むかつくー!何その態度!何その!何っ!!」

青年の言葉、表情――それに煽られた事でかなり怒っていた
と、そこで切り替えると剣をひゅんと、振るって持ち直し、

「銃持ってカッコつけて――顔がイケメンだからってモテる時代じゃないのよ、おじさんッ!!」

「そーか、イケメンか。おじさんてのは心外だが、まぁ、どうもな」
自分の癖っ毛を軽くわしわし掻きながら、残った笑みのまま礼を言う

そのまま向かって来るであろう彼女を見据えていたが——


剣と盾はフェイク、それらを霧散させると――周囲に煙幕の如く、ダイヤモンドダストの霧が生まれる
白い霞の中に彼女の姿が隠れ、彼が探している間に、その体を彼の顎を殴り抜く為に至近距離に潜り込ませる

――フェイント、霧に身を隠した彼女に少しまばたきしては、マイペースに周囲を見渡して


ふと、突拍子にBB弾ピストルを地面に向け、撃っ

た、瞬間が、彼女が彼の懐に飛び込んだ瞬間と重なった


何の変哲の無いBB弾が着地した瞬間、


爆発した




彼女は至近距離にいたために――腹部から爆風、熱風に巻き込まれた

「ぐっ!!」

後方へと転がり――痛みを堪えながら立ち上がろうとするが

「……、は、は……」

体が痛み、その場でへたりこむ

「くそ、くそ……動け……!!」


転げていった彼女を見やれば、今、気付いたような顔で

「あァ、近くまで来てたのか」

爆風に彼女を巻き込むのを狙って撃っていなかったような口振り――本当に狙っていなかったのかは分からない、一貫したマイペースな振る舞い――で。

「なんだ、案外脆いなぁ。「氷」のアザナだろ?強そうな能力なのになあ」
ハハ、と嘲笑しながら歩み寄る
「ま、使いこなさなきゃ宝の持ち腐れ、豚に真珠。バカに贅沢」
近付いても平気だと言わんばかりに、至近距離まで来て立ち止まる

「土産に教えてやろうか。このBB弾はな、殺したアザナの能力を付加した俺達の道具だ。ちなみに俺が着てるインナーも爆風を防ぐ仕様のそれ」
口元に笑みを浮かべたまま、

「俺はアザナじゃないが、ちゃんと力を使いこなしてる。お前は違う。

ただの"バカ"だ」

オモチャであるはずなのに、"本物の凶器"であるピストルを、相手の額を狙い、向ける




「は、は――」

最早、本物の銃よりも威力のある――『アザナ』の力が付加された武器
――完全に油断していた。警戒こそしたが、戦い方のツメが甘過ぎる

(負ける……、こんな所で私、誰も護れずに死んじゃうの……
弱いまま……馬鹿なまま……!)

この凶悪犯を逃せば――また誰かが傷付く
強くなると誓ったばかりだというのに、こんな――



ファンドランド by jin.
御劔江苗 by kimi.
29. 御劔江苗vsファンドランド 了(20160122)
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