その街中では――女性の悲鳴が複数響いていた

「……うひゃ!!うっひゃひゃひゃひゃひゃ!!おほっ、おほほほ!!」

続いて、下品な男の――欲への歓びしか感じられないような声色の哄笑
男の足元には、呻き、泣きながら地面で転がる女性達が居た

女性等は全員、縄で『亀甲縛り』にされている

「はぁ、はぁあっ……お、おひ……わたくし、こんな風に女性を縛るの夢だったんです……
しかも全員……多分ん、アザナなので、人権とか無いでェす……夢……叶えたり……」

その男は――上半身裸に、その肌を見せるようにコートを羽織り、黒のスラックスを履いていた
なお、コートの下も亀甲縛りである

「ふんん、縛ったらァ……もちろんですね、もちろん……お楽しみですよねぇ……!」

女性を拘束した時点で道徳に反している為、さしたる問題ではないが、彼が縛った女性達には(本人は「アザナ」とは言っているが)一般女性も巻き込まれていた
手当たり次第に捕まえて転がしたのだろう、これでは純粋な強姦魔である
しかも、本格的に事に及ぼうとしているらしく――


「あぁ、もう、信じらんない」


眉間の皺が常より深い、一人の少女


面倒事を避けたいが、面倒事がひしめき合ってしまっている現状で、彼女が面倒事に遭遇してしまう可能性は、悉く低い
加えて危険にさらされている人間を目にしてしまった以上、その人達を「助けない」という道を選ぶ程、彼女は薄情ではない

むしろ——自覚の無い、『お人好し』


「そこの変態。今警察に通報してる。死刑になりたくなければこれ以上罪を重ねるな」


だるそうに着信中のスマートフォンを見せつけるように持ちながら、赤紫キミドリは牽制する



ああ?と振り返れば――そこにいるのは、紛うこと無く『女の子』
彼は着信中のスマートフォンを見たとしても、動揺すること無く――にやりと笑った

「何でゃ何でゃあァァァァァ!?あなた……あなたさまはァいひゃひゃあひゃ!
お巡りさん来たら捕まっちまうじゃありませんかァ……おいィィん、馬鹿ですかァァ!?!」

楽しげに彼女を否定すれば、コートをばさりと広げる
――コートの裏には、一束に纏められた縄が、ざっと十数本はぶら下がっていた。彼なりの隠し武器のようである


「わたくしの能力武器は縄!!!!!『縛』ッ!!!」


――コートの縄が蠢き、彼女に向けて飛来した


ビクッ、と逆に彼女の方が酷く動揺していた。彼のけたたましい声に返す台詞も思い浮かばず口をぱくぱくさせていたが、最後の叫びにまた真剣に眉をひそめる
「能力武器――?」
警察に繋がらないスマホを取り落としながら、とっさに迫り来る縄を両手でバシバシ弾き返し拒絶した

そのまま落下するかと思いきや――。ぶわ、と生き物のように広がり、彼女の体に巻き付く
「――んッ、な?!?!!?」
そのまま亀甲縛りの形で拘束され、目を見開く
堅く複雑に拘束されてしまっている以上何も出来ず、ただ身じろぎするしか出来ない
「……またかよ、」
先日の事件でも捕縛されていた彼女は、腕一本動かせない状態から苛立たしそうに一人言をぽつりと零す


「あひゃ、げひゃひひひひひひぃっ!!!!!
あああきもひぃいいいいい!!!!!
貴女みたいな子が縛られるの興奮します!!!!!さぁ、悪い子はイタズラしちゃいましょうかねェエ……」

そうして、彼は、ゆっくりと彼女に歩み寄る


携帯も、此度のテロ事件のせいで回線が込み合っているせいで繋がらない
男が迫って来るのを上目で睨み付けながら、今自分に何が出来るか、必死に思考を巡らせて居るが――、

(………江苗でも、助けに来てくれないかね)

自分の能力では抵抗するにも限界がある。とても、どうにも出来そうに無かった
故に思わず、いつも通り他力本願に逃げ、一瞬、諦めた表情を見せていた



バセット by kimi.
赤紫キミドリ by jin.

30. バセットvs赤紫キミドリ 了(20160122)
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