「……」

その日――無芸梨理恵は、図書館からの帰りの中で、テロ組織の存在を知った
真っ先に、あの生徒会長は危ない目に遭っていないだろうかと不安になる
その矢先に――何となく、先日の『彼』と同じ臭いのする、不信感を抱かせる少年が居たのだ

「……止まりなさい」

自分は、どうしてこうも――妙な奴に会うのだろうかと
しかし、忠犬は忠犬らしく、『彼女』の露払いを行うのみだった


「……?」

眼鏡をかけた小綺麗な少年が、何故か、巨大なタイヤを片手で引きずりながら歩いていた。
"勘の良い少女"の目に留まり、声を掛けられた彼は、ひたりと足を止める
そして不自然なほど淡々とした、幼い無表情で、小首を傾げた

「…なに?」


「貴方――そのタイヤは何ですか?」

単刀直入であった
頭の固さも由来してか――そのような態度である

「そうですね。……もし所用で引き摺っているのなら謝りますが――」

幼子相手に、電撃を見せる

「――そうでない場合は、首にスタンガンが入りますよ」
「……!」

少女の手から電撃が出現し、眼鏡越しに目を見開く。その後、少しだけ微笑み
「…所用だよ。意味も無くこんな重そうなもの、持ってるわけないじゃん」
相手が自分とそう歳が変わらないように見えているからか、タメ口での応対。そして、

"重そうな"巨大なタイヤを、

"片手で軽々と"持ち上げ、相手に向け、笑った

「おねえさんなら分かるんじゃない、僕の"所用"の内容」


彼がつけているグローブが、「軽」の能力を秘めた道具であり――故に、彼は堅く重いタイヤであろうと"軽い物だと脳が認識している"のだ
ダッと少年は走り出し、彼女の下に踏み込む


そのまま彼がタイヤを軽々と扱い――振り上げた瞬間、彼女は飛び上がる
コンクリートの壁――その中に入っている鉄器に、磁力で張り付いていた

「――相性が悪いですね。ゴムと電気とは――」
「すげえ。そんなこともできるんだ」
僅かに開口して笑いながら見上げる。小生意気で、少し冷静だが、年相応の反応
しかし、彼も「コーギー」――戦闘部隊GODの一員。身体能力はただの少年ではない

磁力を消し、足が壁から離れ――重力に任せ、彼の頭上に向けて踵を落とそうとする彼女をニヒルに見やると、
落ちて来る最中の空中の彼女の身体を思い切り、薙ぐようにタイヤを振りかざした


「――」

ど、と地面に叩き付けられ――痛みをこらえながら起き上がろうするが、中々動かない
電気を宙に走らせると、彼女の近くに立っていた電灯へと無理矢理己の足を引き寄せる
電灯の上部に降り立ち、息絶え絶えに彼を見下ろした

「うわあーー、動けるんだ…」
勝ち誇った顔でいた少年は、見上げ、尊敬しているような目で――しかし、可哀想な物を見るような声でぼやく

彼は――持っていたタイヤを、笑ったまま構え直し、――
「そ、れえっ!!!」
重く巨大なタイヤを、――思い切り投げ付けた



「!!」

(避け――)

瞬時に思考する。――普段ならばそのまま電撃で吹き飛ばしていたところだが、飛来するその物体にはそれも叶わない
左に体を傾かせようとしたが、間に合わず――タイヤと衝突、地面に落下していく

「ぐっ!」

落ちる最中、手を開き電撃を放とうとするが、少量しか出ない――
地面に直撃する手前にて、彼女は目を瞑った



コーギー by jin.
無芸梨理恵 by kimi.
31. 無芸梨理恵vsコーギー 了(20160122)
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