路地裏。そこに居たのは――黒い長髪の、着物の男だった

「……ふうむ……、給料分の仕事はすべし……しかし安月給……」

刀を腰に差した彼は、老けた顔つきの眉をしかめる
着物の裾には、「土佐」の刺繍

「……さ……誰を斬るか……」




「なに、仕事中断?…いいよ別に俺は」

そうして着物の男が歩く先に、路地裏から町の様子を伺っている男子高校生が居る
芝南稔。白い息を口から漏らしながら、誰かと通話しているようだ

「でもアンタ、大丈夫か?今テロ組織が暴れてんだぞ、探偵所に居んのか?早く逃げた方が――、」

"仕事"、"探偵所"。彼は探し物が得意故に、探偵のボランティアでもしているのだろうか。通話相手は雇い主であるその探偵で、その探偵の事を心配しているらしい。故に、周囲への警戒は散漫になっていた



「ふむ……?」

前方に見えた少年に、ぴくりと目尻が上がる
躊躇いなく――本当に声でもかけるかのようなノリで刀を引き抜くと、不意にすうっと振った


「――ッぅ、あ!?」

――不意に、"自らの身体が切り刻まれた"

痛みと共に思わず声が上がる。まるでカッターで切られたかのように、何ヵ所も服が裂け、深くは無いが傷から血が流れた
慌てて後方へ振り向き緊迫した様子で構え、目の前の着物の男を睨み上げる
「―――何だよ、アンタか、今のは…?!!」



「はてさて――お前はどう思う?」

まるで彼に委ねるような問いかけを行うと、再び刀を振るう


「ぐ、ッ!!」

致命傷を避ける為にと、腕で顔や胸をガードをするも――再び身体が薄く切り裂かれる
服をボロボロにし、体中に作った傷から血を流しながら、
ふ、と軽く息を漏らし、じり、と足を動かす



「能力武器、というものでな――
まあ、俺の能力は単刀直入に『辻』だ。辻斬りの能力だ」

ただ、だるそうに、彼は――

「ネタばらしを行ったのも――そう、そうだな。俺は焦らす焦らされるが嫌いな性分だからだ
仕事は給料分。給料分だ。悪役はテーマパークのサービス業――

話を盛り上げるのは、余計な仕事だ」

ただ、つらつらと、勝手に喋り
彼は、再び刀を振り上げた


「――…ちッ、何でこう、俺の前には強そうな奴ばっか現れんだよッ」
探偵の声がスマホから聴こえるが、目の前の強敵臭漂う男に冷や汗を流しながら、返事をする余裕も電源を落とす余裕も無いままポケットに突っ込み
吐き捨てるようにぼやくと、路地裏の奥へと走り出した

――入り組んだ路地裏の中を何度か曲がり、不意に立ち止まって左腕を大「砲」に変える。出現した大砲を、自分が来た道の方へ構えると、集中し、そのままエネルギー弾を溜め始めた。
水瓶乙女との戦闘時に見せたエネルギー弾よりも、遥かに強力な威力が込められて行く。男が曲がって来た瞬間を狙い、撃つつもりで、待機している。この一発で終わらせるつもり、らしい

(―――…上手く、いってくれよ)



彼が逃げたとしても――その男、『土佐』は急いだしなかった
淡々と、散歩でもするかのように歩いて追いかける――そうして、


「――喰らえ!!」
溜めたエネルギーを一気に弾として放出、彼に向かって撃ち込んだ



「――」

――土佐は驚かなかった

冷えた目で見つめ、その砲撃をゆらりと横に移動して


『かわした』



避けられたエネルギー弾は、あらぬ方向へ曲がり、ドン!!と横の壁に衝突し、僅かに瓦礫が崩れ落ちる
――目を見張るのは威力だけで――操作性、正確さ、スピード、弾数――何もかも、彼は、未熟で

「――――、」

彼は、「砲」の能力こそ持ち合わせているものの――戦力として数えられる程、強くは無かった。むしろ、「弱者」だった
水瓶乙女に嘘の脅し文句を使い、戦おうとしなかったのも――彼の「戦術」ではない。一発発砲した以上、それ以上は何も「出来なかった」からだった



「……はぁ、――だから、『給料以上に動かすな』と」


そうして、刀を――――


「……は……、」

薄ら笑いを浮かべ、そも、自分の判断が間違いだった、と嘲笑する
大人しく町の方へ逃げていれば良かったんだ。俺が、俺でも、敵を倒して、誰かを救えるかもしれないなんて

(――大馬鹿だな、俺)

不慣れな能力の左手の砲台に全神経を集中させたせいで、刀を躱そうとする体力すら残っておらず――構えていたそれがただの左腕に戻り、だらりと垂れ

(―――クソ、結局見つけられ…なかった………)
心の中で何かをぼやき、後悔から頭を項垂れながら――目も閉じられていた




土佐 by kimi.
芝南稔 by jin.

32. 芝南稔vs土佐 了(20160122)
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。